春の陽射しが校庭に柔らかく降り注ぎ、桜の花びらがそよ風に舞う。
 高3に進級した学校は、新しいクラスや部活の後輩で少しにぎやかだ。

 放課後、バスケ部の部室。小春はいつものように、夏樹の練習を見守りながら声をかけていた。

 そこへ、入部したばかりの新しいマネージャーがやってきた。
 高松 亜美 (たかまつ あみ)
 小柄で可愛らしい笑顔、きらきらした目――どうやら夏樹目当てで入ってきた様子。

「先輩、今日は何かお手伝いすることありますか?」
亜子はにこにこと尋ねる。

 夏樹は少し照れながらも、丁寧に対応する。
その様子を見て、小春の胸の奥がモヤモヤと熱くなる。

「……なんで、あんなに笑ってるのよ」
 小春は小さく呟く。手に握ったタオルがぎゅっとなる。

 亜子は、楽しそうに部室の棚からボールや用具を取り出しながら、何度も夏樹の方を見ては笑顔を向ける。

「先輩、このボールってどこに置けばいいですか?」
 少し身体を傾け、肩越しに見上げる姿は、無意識に可愛らしさを振りまいていた。

 夏樹はその度に少し眉を上げて、軽く笑いながら指示を出す。
「そこに置いてくれればいいよ。ありがとう」
 普段はツンとした口調なのに、マネージャー相手だと柔らかい。

 小春はその様子を、ただ見ているしかなかった。