帰りのJR。
 車窓の外を流れる夕暮れが、静かに夜に溶けていく。

「帰りもお菓子食べながら、いっぱいお話ししようね!」
 駅のホームで小春が笑って言っていた。
 その笑顔があまりにも嬉しそうで、俺もつられて笑ってしまったのに――

 小春は、席についた途端に眠ってしまった。

 カタコトと揺れる車内の中、手の中で握ったままのお菓子の袋。
 ほんの少し、寝息が聞こえる。

「……おい、小春」
 小さく呼びかけても、反応はない。

 気づけば、少しずつ倒れてきた頭が、俺の肩に触れた。
 柔らかい髪が頬に当たる。甘いシャンプーの匂い。

 そのまま動けなくなって、ただ静かに息をする。
 小春の体温が、じんわりと肩に広がっていく。

 肩に頭を預けたまま、安心しきった顔で眠るその姿を見ていると――
 なんだか、胸の奥がじんわりと熱くなった。

「……まったく」
 苦笑しながら、そっとスマホを取り出す。
 シャッター音が響かないように、そっと角度を調整して撮る。
 画面には、俺の肩に寄りかかって眠る小春。

 待受に設定したあと、もう一度だけその寝顔を見た。

「あいつ、起きたら絶対怒るよな……」
 口元に笑みが浮かぶ。
 『なんで起こしてくれなかったの!』って、頬を膨らませる顔まで、簡単に想像できる。

「……まぁ、怒られてもいいか」
 そっと、小春の頭に手を伸ばし、髪を軽く撫でる。
 その瞬間、指先に伝わる温もりが、やけに愛しくて。

「くそっ……愛おしいな」
 小さく呟いた言葉は、電車の音に溶けて消えていった。