ふいに、夏樹が少し目を細める。
「……なんか、雰囲気違うな」
「え?」
 小春は思わず首をかしげる。
「どうかな?」
(可愛い、なんて……言ってくれないよね)

 そんな小春の心の声を見透かしたように、夏樹は小さく息を吐いた。
「……似合ってる」
 そして少し間を置いて、視線を逸らしながら続けた。
「可愛い」

 そのまま、ポンポンと小春の頭に手が置かれる。
 いつもは茶化して誤魔化して、そんなこと絶対に言わないのに――。
 耳の奥まで熱くなって、うまく声が出なかった。

「な、なつくん……」
 小春がうつむくと、夏樹は少し笑って肩をすくめた。
「……行くか、水族館」
「う、うん!」

 少し先を歩く夏樹の背中を見ながら、小春はそっと胸の前で手を握った。
 ――今日が、ずっと忘れられない一日になりそうな気がした。