無事、スノープリンを売っているお店へたどり着いたリリアたち。
でも、村の人の話の中で気になることがありました。

「スノープリンのお店は、村の奥にある小さな家だよ。でも……プリンは買えないと思う」

「ええっ!? そんな、どうしてですか?」

「ゴメン、理由はわからないんだ。でも、最近はお店を閉めているみたいだよ。店長さんのことも見かけなくなってね。何かあったのかな?」

リリアは、諦めきれずいろんな人にプリンのお店について聞いてまわりましたが、みんなそろって同じことを言いました。
お店が開いていない。店長さんのことを見かけなくなった。それがなぜなのかは誰もわからないようです。
プリンが売っていないのなら、リリアがお店に行く理由もないでしょう。
けれど、リリアは諦めません。理由がわからないまま諦めるのはまだ早い。せめてお店の人に話を聞いてみよう。そう決意したリリアは、村の奥にある小さなお店に向かうのでした。

「あった! ここだ!」

村の奥。素朴な小さなお店の前にリリアはやってきました。
金色のベルがぶら下がった木製のドア。
リリアがドアを開ける前に、ココアが肩からピョンと降ります。そして、ドアに近づいてクンクンと匂いを嗅ぎました。
猫じゃなくて、犬みたいだ。そう思ったリリアでしたが、それを口にはしません。なぜなら、犬みたいなんて言ったら最後、毛を逆立てて怒り出して機嫌が悪くなるからです。

「リリア、誰かいるみたい。店長さんかな?」

「きっとそうだわ。入ってみましょう。あ、でも食べ物屋さんだし、動物は入らないほうがいいかも。ココアはここで待っていて」

「はいはい。早く戻ってきてよ」

ふて腐れた様子のココアを一撫で。
リリアは、コンコンとドアをノックします。
何度かノックすると、ドアの向こうから小さな声で「はい」と返事があったので、リリアはドアをそっと開けました。

「ごめんください」

店へ足を踏み入れると、オレンジ色の灯りが優しく店の中を照らしていました。
まず目に入ったのは何も入っていないショーウインドウ。
やっぱりお店は営業していないようです。
そして、店の奥からバタバタと慌ただしく向かってくる女性がいます。この人がお菓子屋さんの店主でしょうか。
女性はリリアへ申し訳なさそうに言いました。

「すみません、今お菓子が作れなくてお店が開けられないんです」

「お菓子が作れない? もしかして怪我をしているんですか?」

「いえ、そうではないんですけど……。あの、貴方は村の人ではないですよね? どこから来たんですか?」 

店主の質問にリリアは答えました。
自分が美味しいプリンを求めて世界中を旅していること、スノープリンの噂を聞いて村へやってきたこと。
すると、店主は長い時間をかけてやってきてくれたリリアに申し訳なさそうに身を縮こまらせて謝りました。

「すみません、こんなにも当店のプリンを求めてくださっているお客様にプリンを売れないなんて……」

「いいえ。謝らないでください。でも、お菓子が作れないのか、理由を教えてもらえませんか? わたし、実は魔女なので少しならお役にたてるかもしれないです」

リリアは、お菓子で頭がいっぱいだけど実は凄い魔女の元で修業をしたことのあるちょっとだけ優秀な魔女。 
困っている人がいたら、できることがあれば助けになってあげなさい。
それが師匠の教え。
リリアは目の前で困っている店主に、にっこりと笑いかけました。
店主は迷っていたけれど、リリアの優しい笑顔を見て心が動かされたようです。 
恐る恐る口を開きました。

「実は……お菓子に使う花の蜜が採れなくて困っているんです」

「花の蜜……それって、もしかしてこの村の白薔薇のことですか?」

「はい。うちのお菓子は、スノーローズ村の濃厚だけど優しい甘さが特徴の白薔薇の蜜を使っているんです。ですが……最近になって夢に妖精が現れて……」

その後、店主から聞いた話を整理しました。

「つまり、夢に妖精が出て来て花の蜜を使うことを怒ってる。そして、花の蜜を使うことをやめるように言ってきた、ということですね?」

「はい。最初は夢だと思ってお菓子を作っていたんですが、毎日のように夢に出て来て怒られるので怖くてお菓子が作れないんです。わたしが何かしてしまったんでしょうか……」

怯えた様子の店主を見て、リリアは考えました。
どうして、お菓子作りをしているだけの店長さんの夢に出て来てまで花の蜜を使うことを止めようとするのでしょうか。
そこまでするなんて、きっと何か理由があるはず。もしかしたら妖精は何か誤解しているのかもしれない。そう思ったリリアは店主にある提案をしました。

「わかりました。わたし、妖精さんと話してみようと思います」

「えっ? 貴方のような可愛らしい女の子があの恐ろしい妖精と? そ、そんなの危ないですよ!」

慌てふためく店主に、リリアは大丈夫と伝えるために優しく笑いかけました。

「大丈夫です! わたし、魔女なので。それじゃあ、行ってきます!」

そう言ってリリアはお店を後にしました。
店を出てすぐに、地面で丸まっているココアに声をかけます。

「ココア、起きて! やることができたの。妖精に会いに行くわ」

リリアの大きな声に起こされたココアは、むくりと体を起こします。

「え? 一体どうしたの?」

「妖精に会って話をするの。それを終わらせないとプリンが食べれないわ。さ、早く行きましょう」

早く、と促すと慌てた様子でピョンとリリアの肩に飛び乗ったココア。
ココアが乗ったのを確認したリリアは、えいっと宙に手を振りかざします。すると、次の瞬間。
リリアの手には、ぐるぐる巻きのキャンディ……ではなく、ぐるぐる巻きのキャンディの形をした魔法の杖が握られていました。
これは、リリアが魔法を使うのに必要な大事な杖。
リリアは、それを手にして呪文を唱えます。

「キラキラキャンディ☆ぐるぐるキャンディ☆魔女リリアの名の元に、どうか店長さんの元に現れる妖精を見つけてちょうだい」

リリアが流れるように呪文を唱え、くるくると魔法の杖を振りました。
すると、リリアの杖からキラキラな光がまるで天の川のように伸びていきます。この光の先に妖精がいるはずです。
光を辿った場所にあったのは、白薔薇が咲き誇る小さな庭でした。

「きっと、ここに妖精さんがいるはずだわ。でも、薔薇に隠れているみたいね」

「リリア、一緒に見つけよう」

「うん!」

☆問題
白薔薇の中に隠れている妖精を見つけよう。八個の薔薇の中、一つの薔薇に妖精がいる。間違い探し。妖精の羽が薔薇の花びらに紛れている。