月曜日。いつものように優君をむかえに行った。だけどまだ犬の姿のままだった。
「・・・」
今回、長引いてるな。いつもなら、お父様の薬が効くのに・・・。
そういえば、お兄ちゃんが優君に渡した新薬ってどんな薬だったんだろう。
「あっ」
昼休み、転入の件で職員室に向かっている途中だった。優君と一緒にいた女の人を見つけ、思わず声が出た。男子生徒と楽しそうに話してた。ときおり、大きなリアクションをとりながら、隣にいる男子生徒の肩を滑らせるように触っている。
心の奥にザラついた感情が重なって息苦しくなっていく。
向こうも私の姿に気づくと、目を吊り上げキッと強く睨んできた。男子生徒の手を取ると、顎を上げながら、そのまま三年生の一般科の校舎へ入って行った。
あの人が、優君の彼女・・・。
人差し指がズキンと痛んだ。朝食のとき、お皿を割ってしまった。拾おうとしたら、欠けたお皿で指を切ってしまった。お手伝いさんが顔を青くしながら、すぐに絆創膏を貼ってくれた。その指が、思い出したかのようにズキズキと痛み出した。
□□□
校庭から、部活動が始まる掛け声が聞こえてきた。運動部が各自ユニフォームに着替えて、準備運動をしている。
「ちょっと千保っ!!」
午後の授業を終え、帰りの支度をしていると、先に帰ったはずのレナが、慌てた様子で教室に戻って来た。走ってきたのだろうか。珍しく巻いた髪が乱れている。
「どうしたの?そんなに慌てて・・・」
「千保のお兄さん!校門のところにいるわよ!人が集まってる」
「えっお兄ちゃんが?」
レナに引っ張られながら、校門へ向かった。外に出ると、夏の日差しに一瞬だけ目が眩んだ。
そこには、確かに人だかりができていた。赤いスポーツカーの前に立つ、見慣れた人影。頭一つ分抜き出た人物を取り囲む女子生徒たち。
「西条寺昂さんですよね!?」
「雑誌読みました!こんなところで会えるなんて感動です」
「あっ握手してください!」
「雑誌で見るよりかっこいい~!」
黄色い歓声が沸き上がる中、サングラスをかけたお兄ちゃんが、私に気がづいて手を上げた。
「やぁ千保。むかえに来たよ」
いや、そんなことしなくても、わかりすぎてます。
周りにいた女子生徒たちが、ギロリと敵対心を剥き出しにした。けれど私が妹だとわかると、すぐにお兄ちゃんの方を向き直した。
正直ここまで人気とは思っていなかった。レナがあの雑誌の影響力について語ってたけど・・・本当にすごいんだ。
密集する女子生徒をかき分けながら、私はなんとか車に乗り込んだ。後部座席にはまめ蔵とアレキサンドリアもいた。
「すごいギャラリーね。アイドル顔負けだよ」
「フフフ本当だね。日本人女性は惚れやすい性分なのかな」
「否定しないんだ」
「事実だからね」
お兄ちゃんのその自信、私も半分でいいから見習いたい。
レナが車の近くにいる生徒たちを、離れるように誘導してくれた。相変わらずレナの引率力はすごい。人が離れ、ようやく発車させることができた。車がビュンビュンと音を立てて加速していく。
「優君のまだ調子が悪いみたいなの。今日も学校を休んでて。帰りに犬神病院寄ってくれる?」
風音に負けないように、声を張り上げた。
「優一郎ならまだ寝てるよ。犬のまま目を覚まさない」
「えっ優君に会いに行ったの?」
「会いに行ったんじゃない。犬神病院に用事があったんだよ。まめ蔵の検疫の件でね」
「そっか、まめ蔵も連れて行くと書類が必要なんだっけ」
「ついでに千保の転入の話をしてきたよ。てっきり千保から話していると思ったのに、まだ言ってなかったんだね」
「お兄ちゃん、おじ様たちに話したの?」
「うん。もう来週にはアメリカに行くからね」
「来週!?うわぁ!」
お兄ちゃんは片手でハンドルを操作し右折した。そのせいで勢いがつき、体が大きく傾いた。風に全身を押されながら、力を命一杯入れて体勢を持ち直した。
「だって、二週間は日本にいるって」
「仕事が早く片付いたんだ」
「ま、待ってよ。優君があんな状態なのに、私・・・」
「いつ戻るかわからないんだ。待ってられないよ」
サングラスをしているお兄ちゃんは、いつも以上に表情が読み取りにくかった。どこを見ているのか、わからない。
来週・・・。まだ日にちはあると思っていたのに。来週までに優君が、人間に戻ってることを願うしかない。できれば転入のことはで自分で話したいけど。・・・私、このままで本当にいいのかな。
翌日になっても、優君の熱は下がらずに、人に戻っていなかった。
別れの日まで、刻々と時間が近づいていた。
「・・・」
今回、長引いてるな。いつもなら、お父様の薬が効くのに・・・。
そういえば、お兄ちゃんが優君に渡した新薬ってどんな薬だったんだろう。
「あっ」
昼休み、転入の件で職員室に向かっている途中だった。優君と一緒にいた女の人を見つけ、思わず声が出た。男子生徒と楽しそうに話してた。ときおり、大きなリアクションをとりながら、隣にいる男子生徒の肩を滑らせるように触っている。
心の奥にザラついた感情が重なって息苦しくなっていく。
向こうも私の姿に気づくと、目を吊り上げキッと強く睨んできた。男子生徒の手を取ると、顎を上げながら、そのまま三年生の一般科の校舎へ入って行った。
あの人が、優君の彼女・・・。
人差し指がズキンと痛んだ。朝食のとき、お皿を割ってしまった。拾おうとしたら、欠けたお皿で指を切ってしまった。お手伝いさんが顔を青くしながら、すぐに絆創膏を貼ってくれた。その指が、思い出したかのようにズキズキと痛み出した。
□□□
校庭から、部活動が始まる掛け声が聞こえてきた。運動部が各自ユニフォームに着替えて、準備運動をしている。
「ちょっと千保っ!!」
午後の授業を終え、帰りの支度をしていると、先に帰ったはずのレナが、慌てた様子で教室に戻って来た。走ってきたのだろうか。珍しく巻いた髪が乱れている。
「どうしたの?そんなに慌てて・・・」
「千保のお兄さん!校門のところにいるわよ!人が集まってる」
「えっお兄ちゃんが?」
レナに引っ張られながら、校門へ向かった。外に出ると、夏の日差しに一瞬だけ目が眩んだ。
そこには、確かに人だかりができていた。赤いスポーツカーの前に立つ、見慣れた人影。頭一つ分抜き出た人物を取り囲む女子生徒たち。
「西条寺昂さんですよね!?」
「雑誌読みました!こんなところで会えるなんて感動です」
「あっ握手してください!」
「雑誌で見るよりかっこいい~!」
黄色い歓声が沸き上がる中、サングラスをかけたお兄ちゃんが、私に気がづいて手を上げた。
「やぁ千保。むかえに来たよ」
いや、そんなことしなくても、わかりすぎてます。
周りにいた女子生徒たちが、ギロリと敵対心を剥き出しにした。けれど私が妹だとわかると、すぐにお兄ちゃんの方を向き直した。
正直ここまで人気とは思っていなかった。レナがあの雑誌の影響力について語ってたけど・・・本当にすごいんだ。
密集する女子生徒をかき分けながら、私はなんとか車に乗り込んだ。後部座席にはまめ蔵とアレキサンドリアもいた。
「すごいギャラリーね。アイドル顔負けだよ」
「フフフ本当だね。日本人女性は惚れやすい性分なのかな」
「否定しないんだ」
「事実だからね」
お兄ちゃんのその自信、私も半分でいいから見習いたい。
レナが車の近くにいる生徒たちを、離れるように誘導してくれた。相変わらずレナの引率力はすごい。人が離れ、ようやく発車させることができた。車がビュンビュンと音を立てて加速していく。
「優君のまだ調子が悪いみたいなの。今日も学校を休んでて。帰りに犬神病院寄ってくれる?」
風音に負けないように、声を張り上げた。
「優一郎ならまだ寝てるよ。犬のまま目を覚まさない」
「えっ優君に会いに行ったの?」
「会いに行ったんじゃない。犬神病院に用事があったんだよ。まめ蔵の検疫の件でね」
「そっか、まめ蔵も連れて行くと書類が必要なんだっけ」
「ついでに千保の転入の話をしてきたよ。てっきり千保から話していると思ったのに、まだ言ってなかったんだね」
「お兄ちゃん、おじ様たちに話したの?」
「うん。もう来週にはアメリカに行くからね」
「来週!?うわぁ!」
お兄ちゃんは片手でハンドルを操作し右折した。そのせいで勢いがつき、体が大きく傾いた。風に全身を押されながら、力を命一杯入れて体勢を持ち直した。
「だって、二週間は日本にいるって」
「仕事が早く片付いたんだ」
「ま、待ってよ。優君があんな状態なのに、私・・・」
「いつ戻るかわからないんだ。待ってられないよ」
サングラスをしているお兄ちゃんは、いつも以上に表情が読み取りにくかった。どこを見ているのか、わからない。
来週・・・。まだ日にちはあると思っていたのに。来週までに優君が、人間に戻ってることを願うしかない。できれば転入のことはで自分で話したいけど。・・・私、このままで本当にいいのかな。
翌日になっても、優君の熱は下がらずに、人に戻っていなかった。
別れの日まで、刻々と時間が近づいていた。


