胸が熱くて、もう迷えなかった。
心の奥に灯った小さな炎が、迷いを焼き尽くしていく。
わたしは彼の腕をつかみ、ぐっと力を込めて見上げた。
夜風が頬を撫でる。けれど、彼の瞳の揺れの方が、ずっと強くわたしを揺さぶった。
「……巻き込まれてもいい」
その言葉は、わたしの中で何度も繰り返されてきた問いへの答えだった。
逃げることも、守られることも、もう望まない。
ただ、彼の隣に立ちたい。それだけだった。
狼の瞳が揺れる。
鋭く、孤独を宿したその瞳が、わたしの言葉にわずかに震えた。
「危険な街でも、あなたが“狼”でも。
わたしは、あなたの隣に立ちたい」
声は震えていた。
けれど、心は不思議なほど静かだった。
凪いだ湖のように、揺るぎない意思がそこにあった。
初めて、自分の意思で選んだ言葉。
誰のためでもなく、誰に言わされるでもなく。
わたし自身が、わたしの未来を選んだ瞬間だった。
凛斗は目を伏せ、わたしの手をそっと握り返す。
その手は、いつも冷たかったはずなのに、今は確かに温かかった。
そして、彼はわたしを抱きしめた。
強く、迷いのない腕で。
耳元で、低く、けれど確かにささやく。
「……もう、絶対に離さねえ」
その言葉に、わたしの胸がきゅっと締めつけられる。
痛いほどの嬉しさと、切ないほどの安堵。
月明かりがふたりを照らす。
凛斗の横顔は、まるで孤独な狼が居場所を見つけた瞬間のようだった。
長い夜を彷徨い続けた彼が、ようやく辿り着いた場所。
わたしの腕の中で、彼は少しだけ震えていた。
その震えが、彼の本音を物語っていた。
危険な街の片隅で、狼と月は寄り添った。
傷ついた過去も、抗えない運命も、すべて抱きしめながら。
ふたりは同じ未来を選んだ。
それは、誰にも壊せない、静かで強い誓いだった。


