路地に、静けさが戻った。

 
倒れた男たちはうめき声をあげ、遠ざかっていく。
 
わたしはまだ、凛斗の胸の中にいた。

「……放せって言えよ」
 彼がぼそりとつぶやく。

けれど、腕は離れない。

 鼓動が速い。
彼のか、それとも自分のか。

 わたしは声を出すこともできずに、ただ彼のシャツを握っていた。
 やがて、凛斗は小さく舌打ちした。

「……だから言っただろ。俺の近くにいりゃ、危ねえって」

「でも……あなたが助けてくれた」

 自分でも驚くくらい、震えながらもはっきり言っていた。

 その瞬間、彼の腕に力がこもる。

 息が耳元にかかって、低い声が落ちてきた。

「……俺は狼だ。群れも、居場所もいらねえ。でも――」
 言葉が途切れる。
 狼の鋭い瞳が、わたしを真っすぐ見た。

「……お前だけは、俺の隣にいてほしい」

 ドキドキしすぎて、息が止まりそう。

 怖いはずのその眼差しに、なぜか涙が出そうなくらい安心した。

 子どもの頃に見た、
 ……守ってくれる笑顔と同じだったから。