翌日の放課後。

 校舎裏のベンチには、誰もいなかった。

 夕焼けが静かに差し込むその場所で、深明は何事もなかったように座っていた。

 
制服は整っていて、表情もいつも通り。

 でも、目の奥だけが、少しだけ揺れていた。

 ヨッシーが、少し遅れてやってくる。

 ふたりは言葉を交わさず、並んで座る。

 「……泣きたくないのに」

深明がぽつりと呟いた。

 その声は、風にかき消されそうなほど小さかった。

 「泣きたくないのに、涙が止まらないの。

 平気なふり、してたのに……」

 ヨッシーは、何も言わなかった。

 ただ、深明の肩をそっと引き寄せ、自分の胸に抱きしめた。

 深明の涙が、制服の胸元に染みていく。

 でも、ヨッシーは動かない。

 その腕の中で、深明は静かに泣いた。

「……支える人じゃなくても、そばにいていい?」

 その言葉に、ヨッシーは小さく頷く。

 「俺が守る。

 それだけでいい」

 夕焼けの光が、ふたりの影を長く伸ばしていた。

 誰にも見られない場所で、感情がほどけていく。

 それは、支える人が“支えられる側”に戻る、静かな奇跡だった。