マイクとマウンド、夢の向こうへ

それは、彼女が“支える人”としてではなく、“自分のために動く時間”だった。

 機材を使用し、スロー映像を繰り返し再生していた。

 カメラに映ったヨッシーのフォームを、一フレームずつ丁寧に比較する。

「……リリースがちょっと高い……。

 腕の振りも微妙に違う……

 踏み出しの位置もズレてる」

 自分でも驚くほど冷静に、データを画面上に線や矢印で可視化していく。

「これだ……」

 制球率の変化、被打率の増加、球威の低下——

 全てが数字と映像で表れていた。

深明は資料をまとめながら、つぶやいた。

 「ヨッシー。

これなら、修正すれば、取り戻せる」

週の後半から、深明は自宅での療養に切り替わった。

 学校には顔を出さず、静かな部屋で、誰にも邪魔されずに過ごしていた。

 復旧された一枚のレポートをもとに、彼女は9割以上を再構成しようとしていた。

  学園グラウンドでの練習試合――あの日の連打。

 その前の、四球を連発した紅白戦。

「……絶対に、何かある。

 見つけてみせる」

その様子を、廊下の影からそっと見ていた深明の父・道明。

 日付が変わった頃、部屋の灯りがまだついているのを見て、そっと戸を開ける。

テーブルには資料が広がり、ノートの上に突っ伏して眠る深明。

 頬にはペンの跡、指先は紙を握ったまま。

 道明は静かに彼女を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。

視線の先、机の端に置かれた白紙の進路希望調査票。

 それを一瞥し、道明は小さく微笑む。
 
 道明は静かに彼女を抱き上げ、ベッドへと運ぶ。

 「……焦らなくていい。

 深明のペースで、歩めばいいんだよ」

 返事はもちろんない。

 ただ、窓の外から聞こえる夜風が、やけに優しく感じられた。