マイクとマウンド、夢の向こうへ

翌日、午後3時。

 校内処分委員会が、生徒指導室の奥で開かれた。

 今回は、特例として理事長も出席していた。

 理事長・神崎誠一(かんざき せいいち)は、静かに席に着いた。

 白髪混じりの髪、深い皺のある額。

その眼差しは、沈黙の中に厳しさと誠実さを湛えていた。

 巽先生がUSBを接続し、復旧された映像を映し出す。

 画面には、濡れた床、倒れたボールケース、金属かごの下に倒れる深明の姿。

 そして、加害者たちの侮辱的な音声が、鮮明に残っていた。

 「秋山さんって、“できる女”ぶってるけど、ただの便利屋じゃん」

「斎藤先輩の彼女ってだけで、調子乗ってるの、見てて吐きそうなんだけど」

「“支える人”って言えば、周りが褒めてくれるから、楽だよね。
 学年1位なのも、先生に贔屓されてるからじゃないの」
 
「あんたがいなくても、誰も困らないよ。
 むしろ、いない方が空気がマシ」
 
 映像が止まると、室内は静まり返った。

 保健の先生が、診断書を読み上げる。

 「右足首の捻挫、両肩の打撲、背中の圧迫痕、腕の擦過傷。
 
精神的ショックも大きく、現在は保健室で静養中です」

 進路指導担当が、静かに言う。

 「このままでは、進路希望調査票の提出も難しいでしょう。
 
心のケアが最優先です」

 副校長が、映像を見つめたまま、低く言った。

 「……これは、いじめでは済まされない。
 暴行と呼ぶべきです」
 
巽先生は、復旧されたレポートの一枚を提出する。

 「これは、秋山深明が野球部のために残したレポートです。
 タブレットの破損後、唯一、復旧された一枚。
 彼女が、誰かのために記録を残した証です」

 教務主任が目を通し、静かに言う。

 
「これだけの分析をする生徒を、“便利屋”と呼ぶのは、侮辱です」