マイクとマウンド、夢の向こうへ

深明の名前が、何度も、何度も、軽く、そして下品に扱われる。

——これは、ただの悪ふざけじゃない。

  ——これは、彼女の尊厳を踏みにじる言葉だ。

彼女がどれだけ真剣に部活に向き合っているか。

どれだけ丁寧に、部員のために動いているか。

それを知っているからこそ、許せなかった。

ヨッシーは、レコーダーを握ったまま、男子部屋の前に立った。

 扉の向こうからは、まだ笑い声が漏れていた。

彼は、何も言わずに扉を開けた。

「……楽しいか?」

部屋の空気が、一瞬で凍りつく。

「俺の恋人を、そんなふうに話して、笑って、録音して。

 お前ら、それが面白いと思ってるのか?」

誰も言葉を返せなかった。

 ヨッシーの目は、いつもの柔らかさを失っていた。

「深明は、俺の大事な人だ。

 お前らが勝手に想像して、勝手に笑っていいような存在じゃない。
  
……俺は、絶対に許さない」

誰かが「すみません」と呟いた。

 ヨッシーはそれに反応しなかった。

 ただ、レコーダーを机に置き、部屋を出ていった。


その翌日。
練習前の部室。
 
いつもなら、巽先生は軽口を交えながらホワイトボードにメニューを書き込む。
だが、この日は違った。

部室に入ってきた先生は、無言だった。
手には、黒の油性ペン。
ホワイトボードの前に立つと、何も言わずに書き始めた。

 その字は、いつもより力強く、少しだけ筆圧が荒かった。
 

『校舎外ランニング10周』
  『素振り20回』
 『毎朝6:00集合 グラウンド整備(1週間)』
 『個別反省文提出(テーマ指定)』
 『日直強制割り当て(1週間)』

部員たちは、ざわつくこともなく、ただ静かにその文字を見つめていた。