マイクとマウンド、夢の向こうへ

朝食後の食堂。

湯気の立つ味噌汁と、焼き鮭の香ばしい匂いが漂う中、部員たちはそれぞれの席で談笑していた。

その中で、1年生の田中くんは、手元の小さなICレコーダーを握りしめていた。

 顔は青ざめ、視線は定まらない。

食器を下げようと立ち上がったヨッシーの背中に、田中くんは意を決して声をかけた。

「すみません…… !

 深明マネージャーが悪く言われるの……
 俺……止められなくて……!

 すみません……!」

ヨッシーが振り返ると、田中くんは震える手でレコーダーを差し出した。

 その目には、罪悪感と、何かを託す覚悟が宿っていた。

ヨッシーは無言でそれを受け取った。

 田中くんの頭を軽く撫でた後、静かに言った。

「……よく持ってきた。

 ありがとう」

田中くんは、少しだけ目を潤ませて頷いた。

 
部屋に戻り、荷物をまとめるふりをしながら、ヨッシーはレコーダーを再生する。

 昨夜の録音は、途中から始まっていた。

 時刻は23:10。

 ヨッシーが部屋を抜け出した直後だった。

「マジで、ヨッシーのやつ、今ごろ深明マネージャーの部屋で何してると思う?」

  「いや、あの子の声で“お疲れさま”って言われたら、もうそのままベッド直行だろ」

 「だよなー!
致してるに食堂のカレー賭けるわ」

「俺、あの子が水渡してくれたとき、手が触れた瞬間、ちょっと勃——」

笑い声。

ベッドの軋む音。

 誰かの「録っとけ録っとけ」と言う声。

レコーダーの存在を意識しているのがわかる。

「ヨッシー、あれ独り占めしてるとか、マジで前世でどんな徳積んだんだよ」

 「絶対、抱きしめてるだけじゃ済んでないって。
 あの距離感、あの空気……」

  「俺、あの子の声で起こされたい。
 “起きてください”って囁かれて、耳元で——」

録音は、朝方まで続いていた。