マイクとマウンド、夢の向こうへ

春の風が、校舎の廊下をすり抜けていく。
卒業生のいない教室は、少しだけ広く感じられた。

新年度の放送部は、椎菜が部長に就任し、後輩指導も担う立場になった。

 深明は放送部を退部し、野球部マネージャーとしての活動に比重を置いていた。

 生徒会では、新入生向けの校内紹介パンフレットの作成が進められている。
 

クラス替えの貼り出された掲示板の前で、深明はヨッシーと並んで立っていた。

「……同じクラス、だね」

「よっしゃ!」

 小さくガッツポーズを決めたヨッシーに、深明はくすりと笑う。

野球部では、ヨッシーが正式に背番号「1」を受け取っていた。

ヨッシーが、新体制の中心として動く、新たな野球部。

 部室のホワイトボードには、見慣れない横文字が並ぶ。
 
 将来を見据えた新たな特訓機器の導入について、ミーティングの真っ最中だった。

 部室のホワイトボードには見慣れない横文字が並んでいる。

  「ピッチング解析システム」
 「バットスイング軌道センサー」

顧問の巽先生は、難しい顔でカタログをめくっていた。

「……確かに性能はすごい。

 球速、回転数、回転軸、打球の角度まで全部数値化してくれる。

 でもな——問題は、値段だ」

カタログの隅には、部員たちの昼食代や遠征代が1年と言わず数年分吹き飛びそうな数字が並ぶ。

 部員たちはざわつき、隣同士で顔を見合わせた。

「これ、導入できたら、俺らのフォームもすぐ改善できそうだな」

 「逆に数値が悪くて凹みそう……」

 「でも、プロのキャンプとかで使ってるやつだぜ?」

ヨッシーが腕を組みながら資料を覗き込み、軽く口笛を吹く。

 「これがあれば、俺のカーブがどれだけ曲がってるか一発でわかるな……。

 まあ、曲がってなかったらショックだけど」

「……曲がってなかったら、私が慰めてあげる」

 深明がさらっと返すと、ヨッシーは照れくさそうに笑った。