ヨッシーと初めて会ったのは、朝から夏の陽が高かった頃。

 少年野球のグラウンドだった。

 「ヨッシー、そのカーブは腕の角度がちょっと立ちすぎてるよ。

 もっとリリースポイントを後ろにして、手首をしっかり返すと変化が鋭くなると思う」

「それに、ストレートを投げる時は肘の位置をもう少し高く保って。

 そうすればボールの勢いが増して、打者を圧倒できるよ」

まだ幼稚園の年長だった、ふたり。

幼稚園児から出る言葉にしては、専門的過ぎた。

 深明を優しく見守っていた、彼女の両親。
 彼ら以外は、大人も子どもも、一様に口をあんぐりさせた。

深明は両親と一緒に、毎日のようにMLBの試合をテレビで観ていたのだ。

しかも、毎回が母親の深月による『ピッチャーのメンタル&フォーム解析』付き。

彼女の方もしらずしらずのうちに、その眼は養われていたのだ。
 
深明はヨッシーの投球を見るたびに、レポート用紙にメモを書き連ねた。

 投球の軌道。

 変化球の使いどころ、打者のスイング傾向──

 ヨッシーの喜ぶ顔が見たくて、夢中だった。

 「まったく。
 ヨッシーったら、相変わらずなんだから」

 小さく呟いたその声は、誰にも聞かれることはなかった。

 ただ、ほんのり頬が上気したのは、隣にいた麗菜には見られていただろう。