冬の寒さが残る放課後。

 正瞭賢高等学園の中庭に、柔らかな夕陽が差し込んでいた。

 チョコの包みを抱えた女子たちが教室や廊下前で立っている行き来する姿が目立つ日。

 バレンタインデーがやってきた。

 校内の空気は、どこかそわそわとしていた。

深明も、例外ではなかった。

 「……手作り、だから。
 甘いの、苦手と思ったから、ガトーショコラにした。

 美味しくなかったら、ごめん」

 野球部のロッカールーム前。

 深明は、そっと紙袋を差し出した。
 
その中には、綺麗に、ラッピングされた箱があった。

 目の前にいるのは、練習試合終わりの、ヨッシーだ。

 手には、ほんの少し汗がにじんでいる。

 「……ありがとう」

 ヨッシーは、受け取った袋をじっと見つめて、顔を赤らめながら微笑んだ。

 「他の皆にはトリュフ配ったけど……

 これだけは、特別」

 その言葉に、ヨッシーの目が驚きで見開かれた。

 そして、まるで抑えていた想いがあふれるように、彼の指先が深明の手を包んだ。

 「……深明。

 これだけは、大事に食べるよ。

 嬉しいよ、すごく。

 お礼、するな」

 その言葉に、深明の胸がほんの少しきゅっと締めつけられた。

 「ありがとう」の代わりのように、そっと唇が重なった。