文化祭当日。

 校舎全体がざわめきに包まれ、模擬店の匂いと笑い声が風に乗って漂っていた。

 深明は、少しだけ緊張した面持ちで野球部のブースに顔を出した。

 顔色はすっかり戻っていて、制服の袖をまくる仕草にも、いつもの軽やかさが戻っていた。

「ストラックアウト本体より、こっちのほうが行列でさ。
 
ちょっとむなしいけど、まあ……嬉しいよ」
 
 ヨッシーが笑いながら指差した先。

ストラックアウトの横に設置されたパネルとモニター。

 ピッチャーの球種やボールの握り方を丁寧に解説した動画が流れている。

 そこには深明の手書きのコメントも添えられていた。

 「それは何より。

 MLB観戦が趣味の、ウチの両親に録画をいくつも貰って、作った傑作よ。

 徹夜して仕上げただけのことはあるわ」

「こういうの、好きだろ昔から」

頬に冷たい感触がして、思わず手に取った。
 ソーダフロートだった。