マイクとマウンド、夢の向こうへ

ヨッシーは、そっとベッドの脇に腰を下ろした。

 指先が、深明の髪に触れそうになって、寸前で止まる。

 今触れてしまえば、何かが崩れてしまう気がした。

——自分は、"まだ"深明の彼氏じゃない。
ただの"幼なじみ"。

 でも、もう「ただ」ではいられない。

彼女の手に触れたい。

 その指を握って、安心させたい。

 今の自分にそれをする資格があるのか、自信がなかった。

「……深明のこと、頼むな」

絞り出すように言ったその声は、少しだけ震えていた。

麗菜は、静かに頷いた。

「うん。

任せて。

 斎藤くんがここまでしてくれたこと、深明はきっとわかってる」

ヨッシーは立ち上がった。

 けれど、扉に向かう足は重かった。

 振り返れば、ベッドの上で眠る深明が、まるで夢の中にいるように見えた。

「……じゃあ、俺、帰るわ」

名残惜しそうに言って、扉に手をかける。

 その瞬間、背中に麗菜の声が届いた。

「斎藤くん。

 深明が目を覚ましたら、あなたのこと、きっと最初に思い出すわよ」

ヨッシーは振り返らず、ただ小さく頷いた。

 扉が静かに閉まる音が、やけに遠くに感じられた。