マイクとマウンド、夢の向こうへ

運転席から降りてきたのは、背筋の伸びた燕尾服姿の男性——八木だった。

「お待たせいたしました。

 麗菜お嬢様、芳尚様。

 ……ご案内いたします」

麗菜が軽く頷き、ヨッシーは深明を抱え直して車へと向かった。

 その背中に、夕暮れの光が静かに差し込んでいた。
 
車が静かに止まり、八木が後部座席のドアを開けた。

 ヨッシーは深明を抱えたまま、ゆっくりと車を降りる。

 目の前に広がるのは、まるで映画のセットのような洋館だった。

高い門をくぐると、石畳のアプローチがまっすぐに玄関へと続いている。

 両脇には手入れの行き届いた庭木が並び、夜のライトアップが柔らかく照らしていた。

 玄関の扉が開くと、数人の使用人が一斉に頭を下げる。

「麗菜お嬢様、斎藤様。

 お疲れ様でございます」

ヨッシーは、思わず深明を抱え直した。
足元が少し震える。

 制服姿の自分が、ここにいていいのか——

 そんな感覚が胸をよぎる。

「……ドラマかよ。
 何だこの家……」

「そういえば、斎藤くんは私の家、初めてだったわよね。
 
今度、またゆっくり案内するわ。
 カラオケとか卓球もやれるわよ」
  
麗菜はくすっと笑い、ヨッシーを中へと案内した。

館内は静かで、空気が澄んでいる。

 天井にはシャンデリアが輝き、壁には額縁入りの絵画が並ぶ。

 床は大理石で、足音がやけに響いた。

案内された部屋は、広くて暖かかった。

 ベッドの上には、白いシーツとふかふかの枕。

 ヨッシーは、そっと深明を寝かせた。

 麗菜が冷却シートを貼り、薬を整える様子を見ながら、彼は何度も深明の寝顔に目を向けた。

頬はまだ赤く、眉間には苦しげな皺。

 それでも、眠っている彼女の表情はどこか穏やかで、無防備だった。