マイクとマウンド、夢の向こうへ

ベンチの最前列。

 深明はタブレットを抱え、相手打者のデータをスクロールしていた。

 肩越しにチームスタッフがのぞき込み、無言でうなずく。

 タブレットを持つ手が、かすかに震えるのを、自分でも意識する。

 冷静を装う瞳の奥で、熱いものがこみ上げていた。

──少年野球のグラウンドで、ひたすらにボールを投げ込んでいた少年が、扉を開こうとしている。

 胸に湧き上がるのは誇りだった。

「この場面、ヨッシーは“自分の球が通じるか”じゃなくて、“自分を信じられるか”を試されてる。

 プレッシャー下での選択は、技術じゃなくて“心の整理”がすべて──

 彼は今、それを乗り越えようとしてる」  

ヨッシーはキャッチャーのサインに、首を縦に振った。

 振りかぶり、ストレートを投じる。

打者のバットが空を切る。

 三振──!

 主審の右腕が大きく振り上げられた瞬間、スタジアムが爆発するようなどよめきに包まれた。

 バットを握ったまま立ち尽くす打者の肩が、悔しさに震えていた。

「よっしゃああ!」

 ベンチから仲間たちの叫び声が重なる。

 観客からの温かい拍手と声援。  

それらが渦を巻き、春のテキサスの夜空へ吸い込まれていく。

深明の視線の先で、ヨッシーがちらりと笑みを浮かべる。

 その笑顔に応えるように、深明も彼に向かって笑顔を見せた。

「彼は、迷いを抱えたまま、それでも前に進んだ。

 それが、私がずっと信じてきた“ヨッシーの強さ”──  心で投げるピッチャーって、こういうこと」

 ふたりは観客の歓声に包まれながら、確かに心を通わせていた。

「“Welcome to the Major Leagues, rookie.” (ようこそメジャーリーグへ。
新人)」

 ──これは、野球と、恋と、夢の、3年間の物語。

 そして、夢の先でまた会うための、物語の序章だった。