マイクとマウンド、夢の向こうへ

翌朝、巽先生は資料を手に取り、目を細めた。

 ページをめくるたび、口元がかすかに緩む。

「……これは、資料じゃないな。
 もはや論文……
 いや、学術書だな」

 巽先生は顔を上げ、部員たちに問いかけた。

「……それで、だ。

これを書いたのは誰だ?」

 沈黙が流れる。

 その中で、背後から一歩、踏み出す足音が響いた。

「……私です」

 声の主は深明だった。
 
 彼女の声は、透明で、芯があった。

その姿を見て、ヨッシーは誇らしさと同時に、胸の奥が少しだけざわついた。

——あのレポート。
以前は、自分のためだけに書いてくれていたものだった。

自分のフォームの癖を、誰よりも細かく見てくれていた。
徹夜してまで、分析してくれていた。

その時間が、確かにあった。

でも今、深明の視線は、他の誰かにも向いている。


「お前か……」
 
巽先生は、口元を緩めたまま、心の中で呟く。

 (――レジェンドの血筋、間違いなく受け継いでる。

 学園を変えるのは、この子だな)

 深明の両親、深月と道明。
 麗菜の両親、椎菜と麗眞。
 
かつてこの正瞭賢高等学園に革新をもたらしたその血脈。


今でも、彼らの存在は、多くの教職員によって語り継がれている。


「さすが、だな。

じっくり読ませてもらうよ。

……将来が楽しみだ」

 巽先生は、そう言って深明の肩を軽く叩いた。