マイクとマウンド、夢の向こうへ

翌日のスポーツ紙。

 大きな見出しは「甲子園右腕・斎藤芳尚 米挑戦へ!」

 その片隅には、ほんの小さく、しかし確かに目を引く文字が添えられている。

「会見で“恋人”を告白!
 お相手は同級生マネージャー?」

 契約金にまで、触れられていた。

 サインボーナスは約70万ドル(日本円で約1億1,000万円)、年俸は約8万ドル(同1,250万円)と報じられている。

深明は、それを手に取った。

 ヨッシーの名前が大きく踊る見出しの下。

 その片隅に、自分の存在が添えられている。

——ほんの小さな文字。
でも、確かに“深明の名前”だった。

 ページをそっと閉じながら、深明は思った。

——誰かの背中を支えるだけじゃない。
——自分の力で、夢を追っている。

その実感が、胸の奥に静かに灯った。

 そして、ふたりの挑戦は、もう始まっていた。
 
 
会見が終わった週の、土曜日。
 
 リビングに差し込む陽光が、やわらかく空間を包んでいる。

 ヨッシーは真剣な面持ちで、深明の両親の前に座っていた。

「……今日は、ご挨拶に伺いました」

彼の正面にいるのは、母・深月と、父・道明。

 精神科医と臨床心理士――

 心のプロであるふたりのまなざしは穏やかで、けれど芯がある。

 その様子は深明に似ていて、蛙の子は蛙とは、まさにこのことかと思い知る。