マイクとマウンド、夢の向こうへ

その日の昼下がり。

職員室のドアを開けた瞬間、深明の顔が強張った。

 見知らぬ外国人スカウトが、落ち着いた表情でこちらを見つめていた。

 肩幅の広い体格に、柔らかい笑み──

 瞳に隠された鋭い眼光。

 初対面ながら、深明の胸に緊張を走らせた。

 外国人が姿勢を正し、穏やかな声で自己紹介する。


「私はダニエル・クーパー。

 みんなからはダニーと呼ばれている。

 スカウトとしてはまだ若いほうだが──

 君にどうしても会いたくてね」

越智先生が日本語に訳すと、深明の胸は小さく高鳴る。

さらにダニーは、深明のレポートをそっと手に取り、目を細める。

「君のレポート、読ませてもらったよ。

 素晴らしいね。

  僕の若いころに君が書いたようなものがあれば……

 もっと多くの選手を成長させられたと思うよ。

実はね──このレポート、僕だけじゃなくて、Texas Southwest Universityの研究室でも話題になったんだ。

 映像解析の教授が、“この視点は現場に必要だ”って言っていてね。

 君の“心で読む力”は、数字だけじゃない。

選手の“迷い”や“揺らぎ”まで捉えている。

 君は、アナリストというより“メンタル・ナビゲーター”だ。

 それが、彼らの目にも新鮮だったんだよ」
 
その言葉は社交辞令ではない。

 心からの敬意が込められていた。

 深明は驚きと誇らしさに頬を熱くする。

「……ありがとうございます」

 自然と声が震えた。

ダニーは微笑み、分厚い資料ファイルを彼女の前に置く。

 「君のために特別に用意したプログラムだ。

 君の高校成績も、申し分ない。

本来、このプログラムは大学生向けなんだ──

 君のレポートを見た教授陣が、こう言ってくれたよ。

  『この子には例外枠を設ける価値がある』とね。

 君の年齢や経歴じゃなく、“視点と完成度”で判断された。

 だからこれは、君だけに開かれた特別な枠なんだ」