部活が次世代に継承されてから、1ヶ月が経った。


 残暑が残る夕暮れの風に、遠くから太鼓の音が届く。

地元の夏祭り――
浴衣姿の人々で賑わう神社の境内は、光と音に包まれていた。

 深明は、紺地に紫の花がよく似合う浴衣を着て、慣れない下駄で何とか歩いている。

 麗菜は、白地に赤の大きな花柄が艶やかだ。
 紺の帯が、全体の印象を引き締めている。

 深明を、時間より早めに、自らの家に呼んだ麗菜。

 着付けはそこで、深明と麗菜自身の分も、使用人に手伝ってもらったのだ。

 屋台の灯り、にぎやかな人波。

深明は、少し恥ずかしげに足元を気にしながら、提灯の明かりを見上げる。

「……やっぱり、こういうの、慣れてないなぁ。

 でも……ヨッシーに見てもらえるならと思って、ちょっと頑張ってみた」

「似合ってるよ。

 すごく」

振り返ると、ヨッシーがにこりと笑って立っていた。

 いつものジャージではなく、紺の浴衣に下駄。

 どこか大人びて見えて、思わず見とれる。

「ヨッシーこそ、いつもと雰囲気違う……」

「まあ、たまにはな。
 惚れ直した?」

 その言葉に、小さく頷いた深明。

 頬がほんのり赤く染まっていた。

「俺としては、深明が可愛すぎて、今すぐ連れて帰りたいくらいだけど」

 ヨッシーは、彼女の髪型が崩れないようにしながら、そっと頭を撫でた。

焼きそば、射的、ベビーカステラ、フライドポテト――
 

歩幅を合わせながら並んで歩き、目についた屋台の食べ物を頬張るふたり。

 
「深明、足、大丈夫?
 痛くなったら言ってな」

 「大丈夫。
 ありがとうね。

「こうして、可愛い深明を見れるの、いいな。
 彼氏の特権、って感じ」

りんご飴を分け合い、手を繋ぎながら歩くうちに、ふたりは人波に紛れて少し離れた場所へ。

 花火が夜空を割いた瞬間、ヨッシーがぽつりと呟いた。

「……深明
 大好き」

音にかき消されたその声を、深明は唇の動きで確かに読み取った。

 胸の奥が、甘く鳴った。

 彼女の笑顔が、次の一発の光に照らされたあと、ふたりはそっと、唇を重ねた。