マイクとマウンド、夢の向こうへ

入学して、1ヶ月が過ぎた昼休み。

 放送室で翌週の番組準備をしていた麗菜。
突然、ミキサー卓のランプが消え、音も途絶える。

「え、電源落ちた…?
えっと、これ、どうすれば……」

慌てる麗菜の隣で、直斗がしゃがみ込み、ケーブルを確認し始めた。

「多分、この配線だな……

あ、ちょっとマイクの位置ずれてる」

 マイクの位置を直そうと、直斗と同時に手を伸ばした。

 その指先がふいに触れ合った。

 その感触は、ほんの一瞬だったのに、麗菜の肌に残り続けた。
 
わずかな静寂も一緒に。

先輩が低く囁くように言った。

 「……近いな」

低く落ち着いた声が、耳のすぐそばで響く。

 直斗の吐息が頬をかすめ、麗菜は息を飲んだ。

 距離は、ほんの数センチ。

ランプが再び灯った。

その指が、ふいに触れ合う。


ランプが再び灯った。

「あ……戻った……」

「ほら、直った。
これでもう、大丈夫。

ん?

顔、赤くない?
熱でもある?」


「そ、そんなこと……ないです!
松倉先輩、ありがとうございました!」

心臓の鼓動は、直った機材よりもずっと速くなっていた。

その様子を、そっと扉の向こうから、深明が覗いていた。

「あれ、十中八九、麗菜のこと好きって顔ね。

麗菜も、少しずつ気付いてくれるはず。

あの子、自分の気持ちを大切に育てられる子だから」

深明は、そっと扉から離れて、野球部のグラウンドに向かった。