マイクとマウンド、夢の向こうへ

後を託すのは、1年後輩の中継ぎ投手、田中。

ヨッシーもベンチから見守り、互いにうなずき合う。

8回。

 田中がマウンドに立つ。

腕を力強く振り抜き、まずは先頭打者を140km/h台前半のストレートで空振りに打ち取る。

続く二番打者には外角スライダーでタイミングを外させ、最後は内角低めカーブで三振に仕留める。

 最後の三番打者には初球の速球を見逃させ、二球目の内角低めカーブで二ゴロに仕留めた。

 無失点でイニングを終えた。

深明はベンチの隅で膝に置いたノートに、田中の球種と球速、投球フォームの特徴を簡潔にメモする。

 「腕の振りが安定してる。

 変化球の落ち方も読みにくい……

 次世代の要になれそう」

 心の中で整理しながら、後で振り返れるように書き込んだ。


9回も、田中がマウンドに立つ。

全力で腕を振り抜くストレートとスライダーに、打者たちは翻弄される。

先頭打者には内角高めのストレートで空振りを奪った。

 次の打者には外角低めのカーブでファウルを打たせる。

3球目。

 約138km/hのストレートで二ゴロに仕留めた。

3番打者も空振りと見逃しで追い込んだ。

 最後は150km/h目前の渾身のストレートで三振。


「7回までのピッチング、マジですごかったっす!」

 「やったっすよ、ヨッシー先輩!」

 「先輩が繋いでくれたから、8回も9回も、思い切り腕振れました!」

ヨッシーは右手の擦れた指先をタオルで隠しつつ、それでもにかっと笑った。

「……お前が最後まで投げ抜いてくれたからだ」

ふと顔を上げた深明。
歓喜の渦の真ん中で後輩に囲まれるヨッシーの姿があった。
誇らしげで、でもどこか照れくさそうに笑うその表情。

深明の胸が、じんわりと温かく満たされていく。

——この人の背中を、私はずっと見てきた。
——そして、これからも見ていきたい。

「この顔が、一番輝いてるんだよね」

彼女はノートをそっと閉じて、目を細めながら微笑んだ。

その笑顔は、マネージャーとしての誇りと、恋人としての想いが、静かに重なったものだった。

——甲子園の光景を、この人と一緒に見ることになるのだ、と。