マイクとマウンド、夢の向こうへ

4月。

 正瞭賢高等学園の校門には、新入生の姿がまぶしく揺れていた。

「もう3年生か……早いなあ」

教室の窓際で、制服のブレザーを直しながら深明がつぶやいた。

 新しい教室。

 新しい担任。

 だけど、隣の席には変わらずヨッシーの姿。

 机をくっつけて話していると、まるで昔からずっとこうだったように、自然に時間が過ぎていった。


──そして、季節は移ろい、夏。

蝉が鳴き始めたグラウンドに、真新しい白球の音が響く。

 正瞭賢高等学園、夏の甲子園に向けた県大会が幕を開けた。

麗菜は特別サポートスタッフとして、栄養面からチームを支えていた。

 夜な夜な選手の体調をチェックし、差し入れ用の補食リストを整えている。


次の試合は、毎年準優勝まで勝ち上がる、実力校。

 一筋縄ではいかない相手だと分かっていた。

試合前夜。

 深明は宿舎の外のベンチに座り、空を見上げていた。

 そこに、ヨッシーがアイスコーヒーのペットボトルを手に、現れた。


「深明のことだ。

 まだ起きてると思ってたよ」

 手に持った片方を、深明に渡した。

「ふふ。ありがとう。

 眠気覚ましに助かる。

 対戦相手の戦力を分析してたの。
 レポート、必要でしょ」

「へえ。
 相変わらず真面目だな。

 倒れるなよ?

 今、深明が倒れたら、試合どころじゃなくなる」

「それは困るな。

 カッコいいヨッシーが見れなくなっちゃう。

 大切で大好きな彼氏が『豪腕の斎藤』って付けられて、SNSでトレンド入りしてるなんて。

 誇らしいのと、ちょっと妬けちゃうのと、半々な感じ」

笑いながら、ヨッシーは彼女の隣に腰を下ろした。

 静かな夜風に、ふたりの距離が自然と近づいた。

「でもな、深明」

「明日。

明日だけじゃなくて、

 ……もしかしたらその先も。

 俺がどんなに打ちこまれて、点を取られても──」

一瞬、言葉を切って。

 ヨッシーは、深明の目をまっすぐ見つめた。

「深明は、マネージャーとして、ちゃんとやるべきことをしてくれ。

 その姿を、俺は見ていたい」

「……うん。

 なるべく、頑張る」

月明かりの下。

その後、ふたりは何も言わず、しばらく空を見ていた。