「小さい頃、家のことで辛くて、一人で泣いてた時があった。その時、知らない女の子が俺に声をかけてくれて……飴をくれて、笑わせてくれて……俺はその子に救われたんだ」

晴人はポケットから小さなハンカチを取り出した。
色褪せてはいたが、そこには「ひな」と名前が刺繍されている。

「俺の初恋も、最後の恋も、全部ひなだよ」

胸が熱くなり、涙があふれる。
晴人は真っ直ぐにひなを見つめ、震える声で言った。

ひなは胸がいっぱいになり、目に涙が浮かぶ。


その後、言葉を続けられずに数秒の沈黙。

晴人は深呼吸をひとつして、懐から小さな箱を取り出した。
テーブルのキャンドルの光が、箱の銀色の縁を淡く照らした。

「‥‥俺、うまく言えないんだけど」
晴人は下を向いたまま、それでも必死に言葉を探す。
「ひなと出会ってから、ずっと、ひなと一緒に生きていきたいって思ってた。
誕生日を祝うのも、ケーキを食べるのも、笑い合うのも‥‥これから先も全部、ひなと一緒がいい」

そう言って顔を上げ、まっすぐひなを見つめる。
声は少し震えていたが、その瞳には誠実さと決意が宿っていた。

「ずっとひなだけを思い続けるよ」

晴人は小さな箱を差し出す。中には、シンプルで美しい指輪。


「愛してる。俺と結婚してくれる?」


店内のざわめきが一瞬遠のいたように感じ、キャンドルの灯りが二人だけを包む。
隣の席の笑い声が、今はまるで聞こえない。
ひなの目に、自然と涙が溢れていた。


「はい‥‥もちろん、喜んで」

「ありがとう。2人で、幸せになろう」

夕陽の光が二人を包み込み、未来への約束を祝福しているかのようだった。