ソファに座り、ひなは深呼吸をひとつする。
「晴人……私、合格したら伝えたいことがあるって約束してたよね」

晴人は少し驚いた顔をして、でも優しく笑った。
「うん、覚えてるよ」

ひなは小さく笑いながら、言葉を選ぶ。
「……あのね、私、物件探そうと思ってるの」

瞬、晴人の目が大きく見開かれる。

「え?物件!?」

思わず大声を出したかと思うと、少し落ち込んだ様子で続ける。
「俺、なんかひなにまずいことしちゃった?もしかして、いびきがすごいとか、夜の電気が眩しかったとか…」

ひなは思わず吹き出す。
「違うよ!別にそんなことないってば!」
「そっか‥‥よかった」

晴人は真剣な顔のまま、でも少し照れくさそうに肩をすくめる。

「そ、そうじゃなくて……晴人の邪魔になりたくなくて、でも、自分の生活もちゃんとしなきゃって」
ひなの言葉に、晴人は肩をすくめ、いたずらっぽく笑う。

「そんなこと考えなくていいよ。俺は、ひながそばにいてくれるだけで嬉しいんだ」

「うん……でも、それだけじゃ嫌なの。私も晴人を支えたい」

晴人は驚いたように目を丸くし、そしていたずらっぽく笑う。
「そっか、じゃあこれからはお互い支え合おうな」

ひなは心臓が早鐘のように鳴るのを感じながら、視線を合わせる。
「私、ずっと晴人の側にいてもいいのかな?」

晴人はしばらく黙ってひなを見つめ、にっこり笑った。

「俺は側に居て欲しいし、ひなの側にいたいよ。――でも、前に言ったけど、急がなくていいんだ。ひなのペースで。ひなにとって負担じゃなければ、俺はいつまででも待つからさ」

いつだって私を優先してくれる。私のことだけを考えてくれる人。
胸の奥から湧き上がる気持ちを、もう隠せなかった。

「‥‥嫌だよ」
ひなが呟くと、晴人は俯いた。

「‥‥そうだよな!ちょっと重いよな」
――ごめんな。
無理に笑おうとするその横顔が、胸を締めつける。

「違うの」
ひなは思わず身を乗り出し、彼の腕を掴んだ。
驚いてこちらを見るその瞳に、もう言葉はいらなかった。

背伸びして、そっと唇を重ねる。

「好きだよ! 前よりもっと、毎日もっと、好きになってる。だから、いつまでも、なんで嫌だ」

晴人は一瞬驚いた表情を浮かべ、そして目を細めて笑う。
「俺もだ、ひな。ずっと、好きだった」

言葉はいらなくなった。
見つめ合うだけで胸がいっぱいになる。

そっと距離が縮まって、触れ合った肩が小さく震える。
この時を、ずっと待っていたように思う。
次の瞬間、心が通じ合うように、自然に
――唇が重なった。

静かな部屋に、心臓の音だけが響いている。

二人は目を合わせると、自然と笑みがこぼれた。
きっとこれから先、色んなことが待っている。
ぶつかることも、時には嫌いになることもあるかもしれない。
それでも――この人となら、きっと乗り越えていける。そう信じられた。

その想いだけで、未来があたたかく輝いて見えた。