「ふ~ん、ファッションショーのためなのね」
「そう。わたしたち、そのためのドレス作りでいそがしいの。分かってくれた?」
 ネルは、ふう、とためいきをついて、モエを地上に下ろそうとしました。
 ところが。
「ねぇ、あなたはドレスを着てみたいって思わないの?」
 モエが、ネルの背中に声をかけました。
「わたし?」
「そうよ。さっきから、ドレスを作るって言ってるけど、そのドレスは、あなたのためのドレスじゃないの?」
 モエのことばが、ネルの心にズンとひびきます。
「――わたしは、みんなが笑顔になるドレスを作りたいの。自分が着たいわけじゃないわ」
「えぇ~、そうなの? だけど、みんなが笑顔になるドレスなら、あなたも笑顔になれるドレスじゃないとイミなくない?」
「……魔女がドレス着るなんて、おかしいじゃない」
 ネルは声を落としました。
「そうだそうだ、ネルたちはドレスよりも、シックなとんがりぼうしやローブ、きらびやかなのより、オレみたいなモノトーンがカッコいいんだ」
 パンぞうもネルのあとに続きます。
 すると、モエはポカンと口を開けて、
「え~っ、そんなのすっごくヘンよ! 魔女がドレスを着ちゃいけないなんて、そんな決まり聞いたことがないわ」
 と、ネルにさけびました。
「ヘンなのは、モエさんのほうじゃない! プリンセスなのに、アイドルもやってるなんて、そんなの……」
「だって、あたし、どうしてもやってみたかったんだもん。好きなことをやるって、そんなにヘンなこと?」
 ネルの気持ちが大きくゆれうごきました。
「だ、だって、あなたは――」
 モエはさびしそうにうつむいて。
「プリンセスって、とってもきゅうくつなのよ。朝から晩まで、お勉強におけいこごとが山ほど」
「えぇ? 朝から晩まで勉強しねーといけないのかよ?」
 パンぞうも思わず顔をしかめます。
「ええ。ときどきお出かけもするけど、お城のすぐ近くだけ。それも、いつもばあやたちといっしょ。変わるのはドレスの色だけで、あとはおんなじ毎日。そんなくらしがツラくなっちゃったの」
「そうだったんだ……」
 ネルのむねがチクッといたみます。