優太に片思いをして七年が経つ。数ヶ月の差で生まれてから十歳になるまで、私たちの家は隣同士だった。幼稚園も小学校も一緒に門をくぐって、お喋りしながら二人で帰ってきた。しかし、五年生になる年、優太のお父さんの転勤が決まり、あの家は空っぽになった。優太がそばにいるという当たり前の日常を失った時、悲しいのと同時にひどく恋しくなったのを覚えている。離れて初めて優太が好きだったのだと気づいた。
時は流れて涙味の初恋も忘れかけていた。私は高校一年生になり、新しい学校、教室で、クラスの名簿に『小山優太』の文字を見つけた。私の前の席に座る、二つ前の生徒が見えないくらい大きな背中の男子は、プリントを後ろに回しながらこちらの様子を窺うように視線をやった。
「久しぶり……?」
私がそう話しかけると優太の表情はパッと明るくなった。
「久しぶり、みよちゃ……いや、佐野さん」
「みよちゃんでいいって」
彼は笑うと右頬にえくぼができた。幼い頃の面影が脳裏をよぎる。本物の優太だと確信して、胸が高鳴った。薄くなっていた優太との記憶が鮮明によみがえり始める。私は、あの頃と変わらない優しい言動に浮かれていた。簡単に優太との運命を感じて再び恋に落ちるのは、会話をスタンプで終わらせるよりも簡単だった。ドラマやマンガのように初恋の相手と再会した私は、優太とは結ばれるのだと信じていた。
しかし、再び優太を失うのを恐れた私は、高校を卒業しても大学で優太がモテ始めても告白はできなかった。幼馴染というポジションは時に私を安心させて、時にひどく不安にさせる。悲しいことに、独り葛藤している間に、優太は一生を添い遂げる相手を決めてしまった。
私はその選択肢に一度でも入っていたのだろうか。彼女にベタ惚れの優太を見ていると、今更、聞けるはずもない。
「ふーん、二十歳から付き合ぉてってことは、三年目なんか。社会人になったし結婚しよかーってどっちから言うたん? 早ない?」
「卒業したらすぐに結婚したいとは、ずっと話してたよね?」
「うん。プロポーズは俺からしたよ」
「へぇ、優太がカッコつけとるとこ想像できへんわ」
気づけば、二人の回想は終盤で、千颯はパスタを完食していた。私はまた水を飲む。そして、何か言わないと、と自分を奮い立たせた。声が震えないか心配だった。
「そっか。二人ともお幸せにね」
きっと仮面のような不自然な笑顔だろう。しかし、優太はほっとした表情で「みよちゃん、ありがとう」と言った。込み上げる悔しさと悲しさで視界がぼやけた。
「ほな、明日も仕事やし、お開きにしよか」
店を出て二人と別れるまで、私は千颯の後ろに隠れて何度も静かに鼻をすすった。
時は流れて涙味の初恋も忘れかけていた。私は高校一年生になり、新しい学校、教室で、クラスの名簿に『小山優太』の文字を見つけた。私の前の席に座る、二つ前の生徒が見えないくらい大きな背中の男子は、プリントを後ろに回しながらこちらの様子を窺うように視線をやった。
「久しぶり……?」
私がそう話しかけると優太の表情はパッと明るくなった。
「久しぶり、みよちゃ……いや、佐野さん」
「みよちゃんでいいって」
彼は笑うと右頬にえくぼができた。幼い頃の面影が脳裏をよぎる。本物の優太だと確信して、胸が高鳴った。薄くなっていた優太との記憶が鮮明によみがえり始める。私は、あの頃と変わらない優しい言動に浮かれていた。簡単に優太との運命を感じて再び恋に落ちるのは、会話をスタンプで終わらせるよりも簡単だった。ドラマやマンガのように初恋の相手と再会した私は、優太とは結ばれるのだと信じていた。
しかし、再び優太を失うのを恐れた私は、高校を卒業しても大学で優太がモテ始めても告白はできなかった。幼馴染というポジションは時に私を安心させて、時にひどく不安にさせる。悲しいことに、独り葛藤している間に、優太は一生を添い遂げる相手を決めてしまった。
私はその選択肢に一度でも入っていたのだろうか。彼女にベタ惚れの優太を見ていると、今更、聞けるはずもない。
「ふーん、二十歳から付き合ぉてってことは、三年目なんか。社会人になったし結婚しよかーってどっちから言うたん? 早ない?」
「卒業したらすぐに結婚したいとは、ずっと話してたよね?」
「うん。プロポーズは俺からしたよ」
「へぇ、優太がカッコつけとるとこ想像できへんわ」
気づけば、二人の回想は終盤で、千颯はパスタを完食していた。私はまた水を飲む。そして、何か言わないと、と自分を奮い立たせた。声が震えないか心配だった。
「そっか。二人ともお幸せにね」
きっと仮面のような不自然な笑顔だろう。しかし、優太はほっとした表情で「みよちゃん、ありがとう」と言った。込み上げる悔しさと悲しさで視界がぼやけた。
「ほな、明日も仕事やし、お開きにしよか」
店を出て二人と別れるまで、私は千颯の後ろに隠れて何度も静かに鼻をすすった。

