無口な人魚姫と粗暴な海賊

 穏やかな波が時折船を揺らすだけの、いつもより落ち着いた部屋。

 いつもなら、部屋の外からダリオスの仲間達の楽しそうな賑やかな声が聞こえてくるが、今日の船内はとても静かだ。

 船内がこんなにも静かな理由はただ一つ。

 今、このダリオス号には、パールとパールの部屋の前で控えているミーシャしかいないから。


 ちなみにダリオス号とは、パールが今しがた考えた船の愛称である。

 ダリオスに以前、この船の名前を教えてくれたことがあったが、長すぎて覚えることができなかった。

 だからこうして、ダリオス号だなんて安直な名前をつけてみたが、これをダリオスに言うつもりはない。

 例え、話したいと思う日が来たとしても、これだけは絶対に言わないと決めた。

 こんなダサい名前、ダリオスには教えられるわけがない。


 静かな時間がゆったりと流れていく。

 白を基調とした建物が並ぶ港町を、パールは船内からぼんやりと眺める。

 今頃、ダリオス達は初めて寄る港町で、食べ物や服などの物資を揃えたあと、楽しく遊んでいることだろう。


 本心を言っていいのなら、本当はパールも行ってみたかった。

 しかし、パールは人魚だ。

 ダリオスと一緒に歩くことはできない。


 それを配慮し、ダリオスが例え樽に入れて運んでくれると申し出ても、それだけは絶対に嫌だった。

 だって、考えても見てほしい。

 樽から上半身を出した女が運ばれる姿を。


 奇異以外の何者でもない。

 だからこうして、護衛のミーシャとお留守番しているわけなのだが。

 今、思うと街を散策できるのなら樽移動でも良かったのかもしれないと、少しだけ、ほんのちょっとだけ、思った。