放課後の教室は、冬の光で長い影が机に落ちていた。
 外の雪はまだしんしんと降り続け、屋根や校庭の木々を白く染めている。

 千景がわたしの机の前に立っている。
 長い黒髪が肩にかかり、ぱっちりとした目には、心配と覚悟が入り混じった色が宿っていた。

「……美桜、お願い……本当のことを教えて」

 その声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
 わたしは小さく首を振るしかできない。
「……だめ、まだ言えないの」

 笑顔を作ろうとするけれど、頬を伝う熱いものに気づく。
 小さく息を吐き、手のひらで涙を拭う。

 千景は机に座り、わたしの手をそっと握る。
 指先の温かさが、泣きたいのを必死にこらえるわたしの胸を少しずつ和らげてくれる。

「……無理に話さなくてもいい。でも、私は……一緒にいたい」

 その言葉に、胸の奥が熱くなる。
 そうだ、千景はずっと友達で、わたしのことを信じてくれている――
 心の奥の不安が、少しだけ溶けていくのを感じる。



 深呼吸をひとつ。
 雪の日の校庭で陽翔くんと歩いたこと、図書室での二人だけの時間……
 胸の奥の小さな温もりを思い出す。

(……千景に知られるのは怖いけれど、でも……)

 声を震わせながら、ついに打ち明ける。
「……実は……私、病気なの」

 千景の瞳が一瞬、大きく見開かれる。
 静かな教室の中、言葉の重みがふたりの間に広がる。
 息が止まるような時間――胸の奥がぎゅっと痛む。



 千景は何も言わず、ただわたしの手を握り続ける。
 その手のぬくもりが、泣きたいのをこらえるわたしの心を包む。
 しばらくの沈黙のあと、彼女の声がやっと聞こえる。

「……美桜、そんなこと……なんで黙ってたの」

 怒りではなく、悲しさと心配が混ざった声。
 わたしは目を伏せて、涙をこらえきれずにぽろりと一粒落とす。



 肩を少し震わせながら、小さな声で答える。
「……普通に、最後まで普通の女の子として生きたくて……」

 その言葉に千景は、さらにそっと抱きしめてくれる。
 涙が止まらず、嗚咽を抑えながら、わたしは小さくつぶやく。
「……ごめんね、言えなくて……」
千景に抱きしめられたまま、わたしは肩を震わせる。
 涙が止まらず、胸の奥にずっと押し込めていた痛みが溢れ出る。
 冬の光が窓から差し込む教室で、白い影がゆっくりと揺れる。

「……美桜、大丈夫だよ。泣いてもいいんだ」
 千景の声は優しく、でも確かに強さを感じさせる。
 その声に、わたしは小さくうなずき、さらに抱きしめ返す。

 小さな体がぎゅっと重なる感覚。
 胸の奥で、孤独と不安が少しずつ溶けていく。
 泣きながらも、心の奥で安心感が広がるのを感じる。



 涙が落ちるたび、千景の手がそっと髪に触れ、肩を支えてくれる。
 そのたびに、わたしの胸の奥は少しずつ軽くなる。
 秘密を抱えて生きる孤独感が、友達のぬくもりによって柔らかく溶けていく。

「……言えて、よかったね」
 千景の言葉に、わたしはまた涙をこぼす。
 でも今度は、少し安心した涙。
 心の奥に光が差し込むような感覚があった。



 教室の静けさが、二人の呼吸と小さな嗚咽を包み込む。
 外の雪の音だけが、かすかに聞こえる。
 時間がゆっくり流れる中、わたしは千景の存在の大きさを改めて感じる。

(……友達って、こんなにも強くて優しいんだ)
 抱きしめられたまま、心の奥でそうつぶやく。



 しばらくして、二人は少し離れ、互いの顔を見つめる。
 千景の瞳は真剣で、でも温かく、信じられる光を帯びていた。

「……私、これからも一緒にいてほしい」
 わたしが小さくつぶやくと、千景はにっこり笑う。

「……もちろん。何があっても、私は美桜の味方だよ」

 その言葉に、わたしの胸の奥がじんわりと温かくなる。
 秘密を抱えたままでも、友情がこんなに心を支えてくれるんだと、初めて実感する。



 教室の窓から差し込む光が、雪の白さを映し出し、ふたりの影を長く伸ばす。
 抱き合ったまま見つめる時間が、わたしには特別で、愛おしく、少し切ない。

(……この気持ち、ずっと忘れないでいたい)

 胸の奥でそう決めながら、わたしはまた小さく涙を拭く。
 冬の光に包まれ、友情と優しさに守られた心が、少しずつ落ち着きを取り戻す。

 抱き合ったまま、教室は静まり返っている。
 窓から差し込む冬の光が、雪で白く染まった校庭を映し出す。
 その光が、ふたりの影を机に長く伸ばしている。

 わたしは肩を震わせ、嗚咽を抑えきれないまま千景にしがみつく。
 手を握り返してくれる千景の温かさが、心の奥深くまで染み渡る。

「……美桜、大丈夫。泣いてもいいんだよ」
 千景の声は穏やかで、でも確かな強さを感じる。
 その声に、わたしは涙と共に小さくうなずき、さらに抱き返す。



 時間がゆっくり流れる。
 雪の音、風の音、二人の呼吸の音だけが教室に響く。
 わたしの胸の奥に押し込められていた孤独や不安が、千景のぬくもりによって少しずつ溶けていく。

「……言えてよかったね」
 千景の優しい声に、わたしは涙で濡れた頬を拭いながらうなずく。
 安心した涙が、胸の奥からじわりと溢れ出す。



 抱き合ったまま、わたしは少しずつ落ち着きを取り戻す。
 千景の腕の中で、秘密を抱えて生きる孤独感が薄れ、心に小さな光が灯る。

「……ありがとう、千景……」
 ぽつりとつぶやくと、千景は優しく微笑む。
 その笑顔に、胸の奥の重さがふっと軽くなる。



 二人は少し離れ、互いの顔を見つめる。
 千景の瞳は真剣で、でも温かく、信じられる光を帯びていた。

「……これからも、一緒にいてくれる?」
 わたしが尋ねると、千景はにっこり笑った。

「……もちろん。何があっても、私は美桜の味方だよ」

 その言葉に、わたしの胸の奥がじんわりと温かくなる。
 秘密を抱えたままでも、友情が心を支えてくれることを実感する。



 教室の窓から見える雪景色は、まるでふたりだけの特別な世界のようだ。
 雪の白さ、冷たい風の匂い、そして互いの温もり――
 すべてが心に刻まれる時間。

(……この気持ち、ずっと忘れないでいたい)
 胸の奥でそう決めながら、わたしは涙を拭う。
 冬の光と友情に包まれた心が、少しずつ落ち着きを取り戻す。



 その後も、二人で静かに教室に座り、窓の外の雪を見つめ続けた。
 言葉は少なくても、胸の奥で通じ合う何かがある。
 涙のあとに残る温かさと安心感は、言葉以上に心を満たしてくれる。

 夜になり、雪がさらに深く降り積もる。
 教室を後にする前に、千景と手を握り、互いに小さく笑う。
 胸の奥の切なさも、少しだけ軽くなった気がした。