あやかし×コーデ


 そこはどこかの、薄暗い森の中だった。
 うっそうと茂る草木。わずかにできた獣道を、一つ目小僧を先頭に進んでいく。
 すると、突然視界がひらけた。木のすけた広場みたいなところがあって、誰かがいる気配がする。

「このような暴挙は、たとえ大天狗様のお身内の方であろうとも許されるはずがございません!」

 一つ目小僧に引っ張られて、私は草藪の中に身を隠した。慎重にそこから向こうをのぞいて見ると、何人かの人の姿が。
 人……いや。あやかしだ。

「咲様。あれが小天狗です」

 鳥のような顔をした、小天狗というヤツらが三人ほど立っている。烏天狗とも言います、と一つ目小僧が解説する。
 彼らが話しかけているのは、前方にいる大きな人。その人も明らかに人間ではなかった。
 赤い顔に長い鼻。絵本に出てくるような、まさに「天狗」といったイメージの妖怪がどっかりと座っている。樹が初めて会った時に着ていた、山伏の服に見覚えがあった。

「あちらは大天狗様で……」

 そして、大天狗が見つめる先にいるのが、小天狗と彼らに囲まれた……。

(樹……!)

 樹は手を後ろに縛られて立っている。前のようにケガはあまり負っていないようだけど……。

「ご覧ください、樹様の着ている服は、まるで人間のもののようではないですか。あやかしにとって、あるまじきことです」

 小天狗の一人が前に歩み出る。

「そうですとも。人間の真似事など! しかも、樹様は他のあやかしにも惑わすようなことを言い、現代の人間が着ているような服を、あやかしに着せるようし向けているのです!」
「あやかしはあやかしらしい着物に身を包むべきです。樹様の思想は危険でございます!」

 他の小天狗たちも前に出て、ワアワアわめいている。
 大天狗は口元に手をあてて、「ふむ」とうなった。

「その話は真か、樹」
「はい、父上。他のあやかしにいつもと違う格好をしてみてはとすすめたのは俺です」

 樹は背筋をぴんとのばして、大天狗の方を見上げていた。後悔なんてしていない、とその真面目そうな顔には書いてある。

「大天狗様、処罰を!」
「樹様は人間と手を組んで、怪しげな服をあやかしに着せているのです!」

 樹が少し、眉をひそめる。

「俺が一人で考えたことです。人間のところへは、服の素材を調達するために寄っただけです」

 あいつ、さては全部一人で背負うつもりね……!
 一つ目小僧は私の耳元にささやいた。

「いいですか咲様、これ以上騒ぎにならないように、静かにしていて下さいよ」

 一つ目小僧の言う通りだ。私がでしゃばっていったって、事態は何一つ好転しない。
 だから私はおとなしく、一つ目小僧の忠告を……。

「ちょっと待ったーーーー!」

 聞くわけ、ないでしょ。
 私は大声を出しながら立ち上がる。

「ひいいーーっ咲様ぁあ……なんということを……!」

 一つ目小僧の嘆きも無視。
 私が草藪から飛び出すと、そこにいる全員が驚いた顔をしてこちらを向いた。
 中でも一番驚いていたのは、樹だ。

「咲……」

 驚いた顔が、すぐにうんざりした表情に変わる。

「何をしているんだ、こんなとこで」

 せっかく俺がいろいろ取りなしたことが、全部めちゃくちゃだ、と言いたげだ。
 そんなの知らないよ。悪いけど、私は聞いてないんだからね! おとなしくしててほしかったら、先に直接言ってくれなくちゃ。

「人間……」
「人間だ……!」

 小天狗たちが騒ぎ出す。

「ひっとらえろ!」

 私に向かって彼らが飛びかかってこようとする。しかし、その動きは途中で止まった。
 ごうっと、突風が吹いて、小天狗たちがよろめいてしまう。
 風を放ったのは、樹だった。樹の手を縛っていたヒモも切れ、一瞬で自由の身になっている。
 殺気のようなものをみなぎらせ、樹は小天狗たちをひとにらみする。

「咲に手を出してみろ。お前たち、ただではすませない」

 私ですら、息をのむほどの迫力だった。

「な、何を……いつも我らにやられていながら……」
「それはお前たちとやり合う気がなかったからだ。咲に指一本でも触れたら、後悔することになるぞ」

 小天狗たちは、樹の気迫にたじろいでいる。
 ちらっと後ろをかえりみると、一つ目小僧は草藪の中で震えて動けずにいた。

「小天狗たちよ、その辺にしておくがいい。我が息子の樹は本気だぞ。その気になればお前たちなどあっという間に片づけてしまうだろう」

 樹のお父さん、大天狗はのんきそうにそう言った。
 えっ、樹って、そんなに強かったの? いつもケガしてるからいじめられる側かと想ってたけど、我慢してただけだったのね……。
 自分たちが優位な立場にいるとばかり思っていた小天狗たちは、動揺して目を白黒させていた。

「と、とにかく……」

 小天狗の一人が黒い羽を動かして飛び立ったかと思うと、目にもとまらない速さで、草藪から一つ目小僧を連れてきてしまった。

「ひゃああ、お助け!」
「ご覧下さい、大天狗様! こやつ、一つ目小僧の目を! 我々の調べたところによると、からーこんたくと、などという、目につけるガラスで色を変えているのです。それで喜んでいるのですぞ!」

 巻きこまれてしまっている一つ目小僧は、大天狗の前に引き出されて、前よりいっそうブルブル震えていた。