身長差30cm、恋の距離は0cm?

俺にとって、女子という存在は、いつも近寄りがたいものだった。
その理由は、中学一年生のときまで遡る。

当時の俺は、ただピアノが好きで、休み時間にはよく音楽室で一人、鍵盤を叩いていた。そんな俺のところに、ひとりの女子がやってきた。「ピアノ、教えてくれませんか?」透き通った声でそう言った彼女は、とても可愛らしくて、少しだけ特別に感じた。

俺は嬉しくて、放課後、彼女にピアノを教えるようになった。たわいのない会話をしたり、休憩時間にお菓子を交換したり。俺にとっては、それが初めての女子との交流で、楽しい時間だった。

だが、ある日、彼女の態度が急に変わった。「ねえ、私たちのこと、みんなに内緒にしようよ」彼女はそう言って、俺との関係を秘密にしたがった。俺は少し戸惑ったけれど、彼女の願いだからと、特に気に留めなかった。

しかし、その数日後、クラスの女子たちが俺を遠巻きにヒソヒソ話しているのに気づいた。やがて、SNSで俺の悪口が拡散されていることを知った。「瀬名くんって、誰にでも優しいフリして、実は裏でコソコソしてるんだって」「あの子と付き合ってるって嘘ついてるらしいよ」

真実を確かめようと彼女に会いに行くと、彼女は俺の顔を見るなり、「ごめんね、朝陽くん。私、あなたのこと、好きになれないみたい」と告げた。彼女の言葉は、まるで俺が彼女に迷惑をかけたみたいで、俺は何も言い返せなかった。

それ以来、俺は女子が怖くなった。俺の優しさを、勘違いして利用するんじゃないか。俺が親しくなろうとすれば、また同じように傷つけられるんじゃないか。そう思うと、女子に優しく接することなんてできなくなった。だから、女子には「塩対応」でいることに決めたんだ。

だけど、羽園ちゅあだけは違った。俺がどれだけ「おちび」とからかっても、彼女は決して泣いたり、怯えたりしない。逆に、ムカついた顔をして、精一杯の言葉で俺に言い返してくる。そんな彼女を見ていると、俺の心が、不思議と軽くなるんだ。

ちゅあは、俺の過去を知っても、ただ「情けない」と笑っただけ。なのに、俺の心の奥底に染みついた、女子への恐怖を、彼女だけは取り払ってくれるような気がした。

俺は、またピアノを弾けるようになるだろうか。
そして、この小さな女の子に、本当に心を開いていいのだろうか。