いつものような帰り道、私は生徒会室の前を通りかかった。いつもなら生徒会役員たちがいる時間なのに、なぜか明かりがついていて、中からピアノの優しい音色が聞こえてくる。
「あれ、誰かいるのかな?」
私はそっと扉を開けてみた。そこにいたのは、たった一人、鍵盤に向かう朝陽先輩だった。
いつもはクールで完璧な彼からは想像もつかない、どこか寂しそうな、切ない音色。そのギャップに、私は言葉を失った。
「…朝陽先輩?」
私の声に、朝陽先輩は弾くのをやめて、バツが悪そうに顔を上げた。
「おやおちびさん、どうしてここにいるのかな?」
私は思わず答えた。
「なんか、すごく…悲しそうな音だったから?」
「そう見えるかな。余計なお世話だね」
そう言いながらも、彼の表情は少しだけ和らいでいるように見えた。
すると朝陽先輩は、ぽつりと話し始めた。昔、女子生徒にピアノを教えていたこと。その子が勘違いして、SNSで根も葉もない噂を流し、大勢の前で彼を傷つけたこと。そのせいで、人前でピアノを弾くことも、女子と親しくすることも怖くなったのだと。
「…こんな話をして、驚かせちゃったかな。でもまあ、羽園さんには話しちゃってもいいかな、なんて」
朝陽先輩は自嘲気味にそう言ったけれど、私の胸には彼の言葉が深く響いた。
その瞬間、私は分かった気がした。
朝陽先輩は、自分の心の弱さを隠すために、わざと私をからかって、強い自分を演じていたんだ、と。
「…バカ。別に驚いてないし!」
私は精一杯、強がって見せた。
「生徒会長だって、意外と情けないところがあるんですね。フン!」
でも、心の中では、これまで朝陽先輩に抱いていたムカつきが、少しずつ、温かい気持ちに変わっていくのを感じていた。
「あれ、誰かいるのかな?」
私はそっと扉を開けてみた。そこにいたのは、たった一人、鍵盤に向かう朝陽先輩だった。
いつもはクールで完璧な彼からは想像もつかない、どこか寂しそうな、切ない音色。そのギャップに、私は言葉を失った。
「…朝陽先輩?」
私の声に、朝陽先輩は弾くのをやめて、バツが悪そうに顔を上げた。
「おやおちびさん、どうしてここにいるのかな?」
私は思わず答えた。
「なんか、すごく…悲しそうな音だったから?」
「そう見えるかな。余計なお世話だね」
そう言いながらも、彼の表情は少しだけ和らいでいるように見えた。
すると朝陽先輩は、ぽつりと話し始めた。昔、女子生徒にピアノを教えていたこと。その子が勘違いして、SNSで根も葉もない噂を流し、大勢の前で彼を傷つけたこと。そのせいで、人前でピアノを弾くことも、女子と親しくすることも怖くなったのだと。
「…こんな話をして、驚かせちゃったかな。でもまあ、羽園さんには話しちゃってもいいかな、なんて」
朝陽先輩は自嘲気味にそう言ったけれど、私の胸には彼の言葉が深く響いた。
その瞬間、私は分かった気がした。
朝陽先輩は、自分の心の弱さを隠すために、わざと私をからかって、強い自分を演じていたんだ、と。
「…バカ。別に驚いてないし!」
私は精一杯、強がって見せた。
「生徒会長だって、意外と情けないところがあるんですね。フン!」
でも、心の中では、これまで朝陽先輩に抱いていたムカつきが、少しずつ、温かい気持ちに変わっていくのを感じていた。
