「構成、書き終わったよ」

「確認よろしく」

 昨日の深夜2時頃に、ユズから送られてきている。

「今日も学校あったのに、無理して体調崩さないといいけど」

 1人ごとのように呟いて、ゲーム構成のタブを開いた。


 序盤・中盤・終盤と表になって分けられていて、分かりやすい。

 自分じゃうまく言い表せないことが綺麗に語源化されていて、世界の核心を覗き込むような感覚が湧いた。


「ありがとう」

「分かりやすくて、言葉もうまくてすごくいい」

 ユズのチャットに打ち込んで、構成を深く読み始めた。

 ゲームのプレイ姿が浮かび、希望が膨らんだ。


 初心者でも使いやすいと書かれていた、ゲームエンジンをインストールする。

 読み込み中の文字に、緊張が重なり、心拍が上がっていく。

「これで、本当にゲームが作れるのかな」

 画面を開くと、広大な空間が広がった。

 何も形のない白紙の世界。

 マウスを動かすたびに、画面がぐるぐる回りよいそうな気分になる。

 初心者用のチュートリアルを読み進めて、まずは試しに、小さなキャラクターを作り、画面に立たせてみた。

 そのキャラクターはただの小さな四角いブロックだったが、それに愛着と喜びが湧く。

 背景の画像を選んで配置してみる。

 だが、キャラクターが動き始めると、動きがぎこちないのに気づいた。

 関節が変というか、上手く歩けていないというか。

 自然な動きにしたいと思い、物理エンジンの使い方を学び始める。

 ボールを転がしたり、重力の設定をしてみたり、試行錯誤していくうちにある程度、ブロックが滑らかに動き始めた。

 少しずつそのアプリに慣れ始めていく。

 家の中を進んでいき、ジャンプする姿に胸を躍らせた。


 翌朝、目覚ましが鳴る前に目を覚ました。

 瞼の裏に昨日のコードとキャラクターの動きが焼き付いている。

「今日こそ、ユズが考えてくれた構成の方に本格的にとりかかろう」

 朝食を済ませて、すぐにパソコンの前に座る。

 昨日のファイルを開くと、キャラクターが静かに佇んでいる。

「記憶の断片を拾えるようにしないと」

 新しいオブジェクトを作成して、名前を付ける。

 見た目は小さな光の砂。

 触れると、過去の映像や音がフラッシュバックするような演出を入れたい。

 トリガーの設定を調べながら、コードを打ち込んでいく。

「これで、記憶がよみがえる感じにできるかも」

 テストプレイをして、キャラクターが光に近づくと、画面にその光の砂が散らばり、その中に映像やら音が吹き込めば、記憶がよみがえるように見える。

「あと、演出」

 画面を暗転させて、過去の映像を再生するという演出。

 まだ映像はできていないけれど、テキストだけでも雰囲気は出せる。

「あの日、誰かが僕の名前を呼んだ気がする」

 画面に表示された一文に、思わず息をのむ。

「物語っぽくなってきたな」

 夕方になるころには、3つの記憶断片イベントを作り終えていた。

 それぞれが少しずつ主人公の過去を語っていく。


「俺も、過去を吐き出したいのかな」

 出来上がっていく記憶の断片を眺めて、そう思った。