夜の風が冷たく私を吹き付ける。

その傍らで、私は塾の問題集を開いて、紙を使わず脳内で解いていた。

「ユズ」

「お。やっと来た。寒かったんだからね」

腕を手でさすって、少しでもと暖を取る。

「ごめん。ちょっと遅くなっちゃって」

暖かそうに光るお店の光に煽られて、「あのお店、入る?」と訊ねる。

「うん。入る」


「いらっしゃいませ」と、促されて、ファミリーレストランに入った。

「お店に申し訳ないし、一応何か頼む?」

机の横に置かれたメニューを広げる。

「そうだね」

「ゆうや。何に頼む?」

「ユズは、何頼むの?」

「私はこれ頼んでみようかな」

ワクワクした顔で指さしたのは、イチゴのクレープ。

薄い生地にたっぷりとクリームとイチゴが包まれておいしそうな輝きを醸し出している。

前なら恥ずかしがってあんまり頼まない商品だけど、美味しそうだし頼んでみようかなという気が湧いた。

「美味しそうだね。じゃあ、僕はその隣のカスタードプリンにしようかな」

「じゃあ、お店の人呼ぶね」

「うん」

店員さんが静かに音を立てて、テーブルへと近づいてきた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

落ち着いた口調ではきはきと声に出している。

「このイチゴクレープと」

ゆうやに目配せをすると、少し震えた声ながらに「この、えと、カスタードプリンを」と、注文を伝えられていた。

自分だけじゃない。

ゆうやも変化していくんだなということを捉えることができた。


「じゃあ、さっそくゲームの構想を考えていこうか」

横のリュックからパソコンを取り出して、私の方へ向けた。

「文章力は低いけど、一応、ここまでは考えてみてて」


開始時の設定としては、中学生くらいの少年が主人公で、一軒家に閉じ込められた状態。

名前も、どうしてここにいるのかも全ての記憶がなく、家の中の手がかりである、「記憶の断片」を集めていくという形。

アイテムを見つけるたびに、わずかな記憶がフラッシュバックする。

探索を進めていくうちに、自分が何かをやらかしてことを知る。


最初の方のストーリー構成は大体決まっていて、細かい部分を決めていく感じか。

「なるほど。ちなみに舞台はどうして一軒家にしたの?」

「サイトによると、小さい場所の方が作りやすいらしいから」

制作のしやすさ、製作期間、制作費用。

考えないといけないことがたくさんある。

「作りやすさも考えた方がいいのか。それに、一軒家は雰囲気も出るしいいかもね」


「こちら、カスタードプリンとイチゴのクレープになります」

店員さんによって商品が運ばれてきた。


限界というほどたっぷりと載せられたクリームとイチゴが美味しそうな雰囲気を醸し出していて、唾液が口に溜まる。

「食べようか」

ゆうやがそう言い、テーブルの横からスプーンを取り出して、一口、口に運んだ。

私もそれに倣うように、クレープをカプリと噛むと、口の中にイチゴの甘酸っぱさとクリームの濃厚さが溶けていった。

「零れそうだよ、クリーム」

ゆうやに言われて、クレープの下の方を見ると、折れたところの間からクリームが出てきていて、急いでその部分をなめた。

溶けかけたクリームもイチゴの甘酸っぱさが残っていって、ほんのり甘かった。


「ゆうや的には、どんな感じの雰囲気のゲームにしたいの?」

「雰囲気か。ちょっと怖めな感じとか」

「なるほど。じゃあ、こんな感じ」

スマホで、好きなイラストレーターさんのイラストを開いて見せた。

「うん。そんな感じ。カッコよくていいね」

「でも、依頼するにはコストかかりすぎるからね」

相場は分からないけれど、ある程度有名な方だし、相当なコストはかかってしまうだろう。

「そっか。難しいね」

「ゆうやって、絵得意?」

「いや、全然得意じゃない」

「私も」

「絵、無しはキツイよね。やっぱ、外注する?」

「でも、相場、数十万くらいらしいよ」

調べたスマホ画面を出して、私の方に向けた。

さすがに、その金額は無理だよね。

そうすると、自分たちで描くか。

いや、悠夜はともかく私は画力ないし、台無しになっちゃったら嫌だからな。


「AIとかあと無料で使っていいサイトもあるみたい」

AIなら、お金もかからないし、ある程度、上手さも保証される。

「それは、いいかもね」

今日の時点で、決まったことはこのくらい。

イラストは無料のものやAIのものを使うこと。

記憶の断片として主人公が書いた手紙や飾られた顔写真、本棚の中のレコードなど。

この一軒家は主人公の家で家族もいたこと。

プレイヤーの葛藤や苦しさを誘うような作り方をしたいこと。

家族と対立して、殺めてしまったという過去を主人公は持っているということ。

そんなことをゆうやとシェアしてあるタブにまとめて、目を閉じた。

まどろみの中へとそっと溶けていった。