育成ゲームの映画。

 私はプレイしたことのないゲームだったけど、主人公に酷く感情移入してしまった。

 自分だけが上手くいかなくて、真剣に一生懸命頑張っているのに、全然追いつけなくて、劣等感を抱えているという主人公。

 そんな中でも、ご主人様やライバル、友達と助け合いながら夢へと向かっていくという物語。


 その主人公はまるで昔の私を見ているようで、涙が零れそうになった。

 主人公が必死に頑張っている汗や涙の疾走感が綺麗で、見終わった後、深く胸に響いた。


 映画が終わって後もしばらく席を立てず、心の奥に残る余韻に浸っていた。

 隣に座るゆうやも、手を震わせて、目の中に溜まった涙を堪えようと頑張っていた。

「別に、泣いてもいいよ」

 ゆうやは肩の力が抜けたのか、ハンカチで目の中に溜まった涙を拭いた。

 落ち着き、深く深呼吸をしているゆうやに言った。

「ゲームのところはよく分からないシーンもあったけど、主人公の気持ちにはすごく感情移入したかな」

「ユズは、最終的に主人公の夢は叶わなかったけどさ、努力は無駄だったと思うの?」

「こういう感動的な作りにされたら、無駄と言うのは忍びないけどさ、張本人からしたら無駄だった思うもんだと思う」

 主人公の気持ちを思って、胸が痛くなる。

「自分の受験経験なんて小さいことで語るべきことじゃないかもしれないけどさ、やっぱり目指したものが叶わなかったら、努力が報われなかった=無駄って思うと思う。誰かから、いつかあなたのためになるからって言われたところで、その虚無感は変わらないし、そんなことはどうでもいい」

 報われなかったら、どう言われようともどうでもいいと思ってしまう。

「そっか。確かにそういうもんなのかもね」


 自分たちしかいなくなったスクリーンの前を通り過ぎていった。


「時間的にもお昼時だし、フードコート行こうか」

 ゆうやは、その提案に頷いたものの、隣の本屋を過ぎてしまうのを後ろめたそうに見つめていた。

「それとも、フードコート混んでそうだし、本屋で時間潰してからにする?」

 本、見たいんだろうなと思って、そう口にすると、「そうします」と小さな声で言って、一目散でその本のところへ駆けていった。

 ページを猛スピードでめくっていく音が店内に響き、彼の目は今までに見たことのない輝きを放っていた。

 楽しそうで何よりだな。

 マンガ本のページをめくっていくゆうやの姿を微笑ましく思いながら、私は小説コーナーに入った。

 図書館とかだと、表紙が固くて大きい本がたくさんあるけど、本屋はコンパクトで軽い文庫本が多いな。

「罪なのか」

 問いかけるような題名に心を奪われて、買うことにした。

 その本を抱えて、ゆうやのいるマンガのコーナーに戻ると、未だに目を輝かせて、ページをめくっていた、と思ったら、急に振り返って、「これ、面白そう」と笑った。

 珍しく自分から声を出してきて、驚いた。


 記憶探しと不気味な字で書かれた表紙。

 確かに、興味が惹かれる。

「面白そうだね。せっかくだし、買ってみたら」

「うん。買ってみようかな」

 そう言って、1~24巻のマンガ本を全て持ち上げた。

「え。全巻、買うの?」

「また、来れる機会いつになるか分からないし、お金もそれくらいあるから」

「そっか。まあ、リュックだしなんとかなるか」

 レジに豪快にマンガ本をのせて、お金を払っていた。


 フードコートでは、ゆうやは少し緊張しているように視線を泳がせていた。

 ようやく座ると、持ってきたたこ焼きをそっとつまみながら、「人、多いね」とポツリ。


 ゲームセンターや衣料品店などを回って、夜の6時ごろ、私たちはショッピングセンターを出た。