後ろからユズに驚かされた。

 心臓が飛び上がるほど驚いてしまった。

 最近外出てないから緊張してるって言ったのに。

 少しの苛立ちと恥ずかしさで青が赤くなるのを感じる。

「酔っ払いさん、いなくてよかったね」

 瞬くように笑う彼女。

「うん よかった」


「じゃあ、改めて、自己紹介でもする?」

 口角を吊り上げた楽しそうに笑う彼女は、チャットとは別人みたいだ。

 彼女の微笑みと笑顔だけで、今にも、さっき来た夜が明けてしまうくらいの破壊力を感じる。

「私は、白川柚葵だよ。夜と数学と花火が好き」

 何かを欲するような寂しそうな顔で笑う。


「ゆうやも言ってよ」

 緊張した面持ちで、声がガタガタと震える。

「俺は、高橋悠夜。よろしく」

「うん。改めてよろしく」

 握手を促すように右手を差し出され、俺と彼女は握手を交わした。

 その手の体温にも、涙腺が緩むほどのやさしさを感じる。


 だが、その後に気まずい空気が流れてしまい、胸の奥に不安が広がる。

「じゃあ、連絡先でも交換しようか」

 気まずい空気を破るように、彼女はスマホを取り出した。

「このQR、読み込んで」

 差し出されたスマホをカメラから読み込み、白川柚葵を登録した。

 スマホの画面には、見慣れない通知がいくつかならんでいた。

 家から出ていなければ、使うこともなく、半年ほど放置していたせいで、アプリの更新や未読メッセージが溜まっていた。


 画面に映る「白川柚葵」という名前を見つめて、何かが少しずつ動きは始める感覚があった。

 長い時間止まっていた時間が、再び流れ出すような予感。

「高橋悠夜。ピンとこないからゆうやに名前変えていい?」

「いいよ」

 夜の静寂の中、彼女とかわす言葉が魔法のように聞こえてくる。

「なんかさ、ユズってもっと闇が垣間見える感じの雰囲気を予想してた」

「何それ。まあ私もゆうやもっと、怖い感じだと思ってたけど、結構おどおどしてた」

「それは、最近外出てなかったからって言ったじゃん」

「ごめん、ごめん。そうだったわ」

 軽口をたたき合って、笑い合う。

 深い話はしなかったけれど、どこか懐かしく楽しい時間だった。