ゆ 「じゃあさ、ユズは俺のクラスにいるってこと?」

 やっと呑み込めたように返ってきた文に自慢したくなる衝動に駆られる。

 ユ 「そうだよ。白川 柚葵」

 彼の驚いた顔が想像できて、少し得意気な気持ちが湧いた。

 ユ 「今日も配布物机の中に入れておいたよ」

 少しのイタズラ心が芽生えて、どう来るかなと想像を巡らせながら、送信ボタンをタップ。

 ゆ 「ご迷惑をおかけしました」

 彼の真面目さが垣間見えて、微笑ましい気持ちになる。

 ユ 「いえいえ。優等生らしくいるには必要なことなのでw」

 軽く冗談を交えて、笑う。

 ユ 「ゆうやの事、クラスメイトに聞いてみてもいい?」

 彼の過去に触れて、彼のことをもっと知りたいという好奇心が芽生える。

 ゆ 「中1の1学期までしか行ってないし、知ってる子、少ないと思うよ」

 ユ 「でも、公立だし小学校からの子もいるじゃん」

 ゆ 「そっか でも、あんまり聞かないで欲しい」

 過去への複雑な感情が伝わってきて、胸が痛んだ。

 私も同じだ。

 触れられたくない過去を抱えている。

 ゆ 「黒歴史だから、現在進行形で」

 ユ 「そっか わかった」

 黒歴史なんて事はないと思う。

 けれど、否定したところでゆうやが認めない事は分かっているし、自分で言った恥を否定されて受け入れる事は難しい。

 ゆ 「ユズが嫌じゃなかったから、会いたいなって思ってるだけど、どう?」

 会えるんだ。

 ユ 「そっか 近くに住んでるから会えるのか」

 思い立ってもみなかった。

 こんなに近くにいたのに、会ってみようとは考えもしなかった。

 画面越しの関係が現実味を帯びてきて、心がざわつく。

 ユ 「頭、いいはずなのにそこは思い当たらなかったの?」

 煽るような言い方に歯痒さを覚えるが、距離が近くなったような気がして、嬉しさを感じる。

 ユ 「特に現実で会うことを考えてみなかったし、そういうこともある」

 ゆ 「俺の名前といい、意外と抜けてるねw」

 前のことを棚に上げて、また突っ込んできた。

 だけど、悪い気はしていない。

 私の本質を見てくれているようで、心が温かくなった。

 ユ 「それはマジでごめん」

 ゆ 「怒ってる訳じゃないよ。ユズが生徒会長とかじゃなかったら、そんなもんだろうなって思うし、」

 ユ 「ごめんて」

 ゆ 「ユズにもそういう時はあるよねw」

 ユ 「うん 私は完璧人間じゃないからね」

 私はミスをするのが怖かった。

 自分のミスを何度も責めて、そして今でも自分のミスの一つ一つを記憶してしまっている。

 今だって、自分がミスをしたって認めるのは苦手だし、謝ることも苦手。

 だけど、自分は完璧じゃないと声に出すことによって、少し軽くなった。

 ゆ 「そうだね」

 その言葉は、抱えてきた重りはふわっと溶けていくような感覚。

 ゆ 「で、会うのはいつくらいなら大丈夫?」

 ユ 「明日の夜10時とかは?」

 ゆ 「結構遅い時間だね 外出て大丈夫なの?」

 ユ 「塾があるから 夜なら人が少なめだし、その帰りにでも会わない?」

 ゆ 「人って、どのくらいいるの?」

 ユ 「ちらほら程度じゃない? 少ない方がいいなら、近くの北川公園にでも待ち合わせる?」

 ゆ 「そっちの方がありがたい」

 ユ 「ま、そこも酔っ払いのおじさんがたまにいるけどねw」

 ちょっと笑ってほしくて、冗談っぽく言った。

 ゆ 「マジか」

 ユ 「ま、でも。チャットで連絡してもらえればいつでも集合場所変えられるし」

 ゆ 「ゲーム、パソコンでやってるから、持ち運び厳しい」

 ユ 「じゃあ、酔っ払いがいても耐えてもらって」

 ゆ 「頑張る」

 ユ 「キツかったら、その周辺にでもいれば会えるでしょ」

 ゆ 「そうだね じゃあまたね」

 ユ 「うん 明日現地で」