「あれぐらい言わないと、俺のこと見てくれないと思ったから」

真っ直ぐ私を見る瞳と表情は、周りの女子達の噂通りの綺麗なものだった。

「からかったりとかそんなんじゃなくて、本気なんで」
木崎くんの言葉を飲み込むのに、少し時間がかかったように思う。
そして、なんとか飲み込んだ瞬間には、今度は身体中の熱が一気に上がってきたのがわかった。

「…だって、他の女の人と良く一緒にいるって…」
「…あー、…前までは」
「そ、それに、…全然知らないのに…」
「…いや、俺は結構知ってる、かも。飯塚さんのこと」

少し気まずそうに、視線を外す木崎くんは何だか少し照れているようにも見える。

「ずっと、話したくて。だから今、接点ができて正直すげえ嬉しいし、もっと知りたい」
「……で、でも私、木崎くんがいつも一緒にいるような子達とは全然違うよ…?…全然華やかじゃないし、性格も変だし、…勉強も出来ないし……」
「はは。性格が変、って」
ふっと笑う木崎くんは今までに見たことのない笑顔で、思わず心臓が飛び跳ねた。

「見た目がどうとかそんなんじゃなくて、雰囲気とか空気感とか、そういうのに惹かれた。…見た目もタイプだけど」

…褒めすぎだ。
人にこんなに褒められるなんて、私のこの十六年間の人生であっただろうか。
…いや、無い。確実に無い…

遠くで、吹奏楽部の奏でる楽器の音が聞こえる。
私と木崎くんを取り巻く空気は、不思議な空間だった。
すぐ近くで物音がして、パッと後ろを振り返ると美亜の長い髪が見えて、すぐにまた消えた。

「あ、ごめん。友達待ってた?」
「う、うん…大丈夫っ…!」

そのあと木崎くんと別れて教室に戻ると、案の定ユキくんと美亜の質問攻めに遭い、全て話す羽目になったのだった。

それから、私と木崎くんは、実行委員の仕事で度々会うようになり気がつけば週の大半の放課後を一緒に過ごしていた。

一緒にいる時間が増える度に、木崎くんの凄いところを、その都度発見した。

頭の回転が早いので、要領の悪い私の何倍もの速さで作業が終わる。
周りをよく見ていて先々のことを考えているので、私が気づかなかった細かい事にまで気が付く。
何より、誰に対しても優しかった。
…ツカサくんに対しては口は悪いけど。
でも結局、ツカサくんとも仲が良いのだ。