「どしたの?…まさか、唯人に用!?」
「…あ、あの…用って言うか……」
「え~テンション上がるわ~!そして何でこういう大事な時にアイツはいねえのかな…」
「…あ、木崎くんは…?」
「あー…、今ちょっと他のクラス行っててさ」

ニコニコ笑顔で私を見るツカサくんは、大人っぽくて話しかけずらそうにも見えるけど、良い人らしい。

「唯人に渡すもの?」
「…あ、うん…学園祭の実行委員の、で…」
「あ~!まじで心ちんと一緒になれたんだ、アイツ。絶対そんな上手くいかないと思ってたのにな~」

ブツブツ呟くツカサくんの言葉に、いろいろと疑問が浮かぶ。

「…あの、これ…」
「唯人に伝えとくね!心ちんのところ行けって言っとく~」
「…あ、あのっ…ツカサくん…?」
「え。何それ。可愛すぎるんだけど」

さっきまで笑顔だったツカサくんが、いきなり真面目な顔になるから驚いた。
ギャップがすごい…

「心ちん、もう一回言って」
「…え…?」
「俺、くん付けで呼ばれんの初めて!めっちゃいいわ~」
「……私も、その呼び方されるの…、初めて…」

身長の高いツカサくんは、少し身を屈めて私と視線を合わせる。
急に近くなる距離に、スッと高く通った鼻筋とか、透明感のある肌とか、そういうものを間近で感じた。

「可愛いね、心ちん」
急に低くて優しい声色でそんな事を言われて、体温が一気に上昇するのがわかった。
…ツカサくんも、きっと慣れてる。
だけど、免疫のない私はどうにも、平常心ではいられなかった。

「何してんの」
急に私の後ろから降ってくる声は、聞いたことのある声だ。
ツカサくんは私の後ろをチラッと見ると、わかりやすく大袈裟に溜息をついた。
「からかうなって」
木崎くんは、耳まで赤くなった私をチラッと見てツカサくんにそう言う。

「からかってないよ~。心ちんと俺の仲良しタイム」
「は?黙れ」

予鈴が鳴って、お昼休みの終わりを知らせる。
何故か2人に謝ってから、逃げるように教室に戻った私は、木崎くんに渡すはずのプリントを持ったままだった。