あれから、私と木崎くんは、特に大きな接点は無いままでいつもの学校生活を送っていた。
たまに木崎くんからメッセージは来たものの、そもそも関わりのない私達は共通の話題も無かった。
それでも、廊下で見かける度にどんな反応をしたらいいのか分からなくて、気付けばすれ違わないように避けてしまっていた。

放課後になり、すぐに部活に向かう拓くんを見送った後、美亜と今日は何しよっか、と話をしているところにユキくんが慌てて走ってきた。

「心!学園祭の集まり、今日だって」
「…あ、そうだった!忘れてた…!」
「そっか、ユキと心が実行委員だっけ。何か手伝うことあったら言ってね~」

本当に、すっかり忘れてた…
美亜と別れて、ユキくんと二人、指定された教室に向かう。
教室のドアを開けると、もうすでに殆どのクラスが集まっていて、私とユキくんは何故か空いていた一番前の席に並んで座った。

「心、ちゃんと話聞いといて」
「…う、うん…ユキくんは?」
「俺はほら、クラスの決め事の時にみんなをまとめる係」

なんか言いくるめられた気もするけど、私はみんなをまとめたりは出来ないからユキくんにお願いしたほうがいい。
学園祭の概要が書かれたプリントが配られて、後ろに回そうと振り返った時、一番後ろの席に木崎くんの姿を見つけた。

「あ、木崎」
同じタイミングで気付いたらしいユキくんが、私だけに聞こえるくらいの小声で呟いた。
一瞬、木崎くんと目があって、振り払うようにすぐ前を向く。
過剰反応しすぎちゃった…

「木崎って、実行委員とかやるタイプかあ?意外。…まあ俺らもか」

後ろに木崎くんがいると思うと、何故か気になってしまって集中出来ない。
最近の学校生活でもそうだ。
……私、なんで、こんな…意識してるんだろう…

その後、実行委員内の係決めで、偶然にも木崎くんと一緒になり戸惑っている私にユキくんは満足そうに笑っていた。

「じゃあ、解散!お疲れ様でしたー」
解散の合図に、みんなが一斉に立ち上がる。
木崎くんは同じクラスの女の子にしきりに話しかけられていて、返事をしながら教室を出て行った。

なぜか、ほっとして、安心した。
木崎くんと目があったり、同じ空間にいるだけで、どうしても意識してしまう私がいる。

「なんで安心してんの?」
「そっ…、そんな事ないよっ…」
「なあ心?木崎のこと、意識しすぎじゃねえ?」

これはきっと、木崎くんにどんな反応をしていいのかわからないからだ。
木崎くんみたいな人気者に声を掛けられるなんて初めてで、きっとあれは嘘だと思うのに、気付けば避けてしまう。
こんなの、初めての経験だった。

「それってさ、もう落ちてんのかもよ?」

不敵に笑うユキくんの言葉が、私の脳に強く響いたのだった。