「……やっぱり、…木崎くんじゃだめ……?」
不安そうに見上げる瞳が綺麗で、吸い込まれそうになった。
…可愛い。やばい。
正直、こんな風に俺だけを見てくれるなら何だっていい。高望みなんてするべきじゃないのに。
「ツカサのことは?」
「……ツカサくん」
「美亜ちゃんの彼氏は?」
「……拓くん」
「よく一緒にいる、例の奴は?」
「……ユキくん」
でもやっぱり、俺だけっていうのが欲しくなる。俺だけの呼び方、俺だけに見せてくれる表情、俺だけしか見れない姿。
俺だけの、心がいい。
「俺は?」
「………ゆ、……木崎、くん…」
「ゆ、だけね」
苗字プラス“くん”って、明らかにクラスメイトって距離感だよなあ。
まあ、これからどんだけ距離を縮められるかってことか。
「ごめんごめん。いいよ、無理しなくて」
「………でもっ…」
「ん?」
「……まだ、木崎くんのこと、…その、名前で呼ぶ自信がなくて……」
俯く彼女の横顔は、サラサラな髪の毛に隠れてしまった。
「はは。なに、名前で呼ぶ自信って」
「……木崎くんは、やっぱり私には勿体無いくらいの人だから……人気者だし、格好良いし、優しいし……」
「んなことないよ」
「ううんっ…本当に。…私には勿体無いくらい、優しい…」
「そりゃ心には優しくするよ。好きな人だし、嫌われたくねえし、もっと好きになってほしいし」
一瞬固まった後に、耳まで赤くするところも可愛い。すげえ可愛い。
誰かを好きになること自体が初めての俺にとっては、何もかもが新鮮だった。
「……あの先輩にも、そう言ったの…?」
思いがけない言葉に、今度は俺が固まる。
そんな事言われるなんて思ってもみなかった。
目の前の心は、今にも泣きそうで、そんな顔をさせたのは自分だと思ったらこれまでの行いをひどく後悔せざるを得なかった。
「いや、一度も無いよ」
「…ご、ごめんっ……そんなの、木崎くんの勝手なのに…」
慌てて頭を下げる心は、どうやら俺が気分を害したと思ったらしい。
むしろ、その逆だ。俺に興味を持ってくれたことも、美月先輩のことを気にしてくれてることも、嬉しかった。
「まあ、心に名前を呼んでもらえるように頑張ります」
「…う…、ごめん……」
「はは。謝りすぎ」
今まで関わってきた女の子とは違う。
なんせ名前で呼ぶことだけに、こんなに時間がかかったことが無い。そう考えると“木崎くん”って呼び方は心だけで、それはそれで良いのかもしれないななんて思ったりもする。
