「…ふふ、今の顔も初めて」
「いつも格好付けてるからなあ」
「木崎くんはいつでも格好良いもん」
笑いながら言った私の言葉のあとに、急に木崎くんが黙って、ふと我に返る。
変なこと言った…?
深い意味もなく、サラッと言った先程のセリフが脳内をグルグル回って、途端に恥ずかしくなり顔が熱くなる。
「…はは、可愛い」
「か、からかわないでっ…」
「からかってないよ」
きっと、木崎くんは女の子の扱いにも慣れていて、私よりも断然可愛い人といつも一緒にいたんだろう。
私は、そこら辺にいる、ただの女子高生だけど、木崎くんのことをもっと知りたい。
「飯塚さんが俺に伝えたかったのは?」
「……あ、あの……」
「”もう関わらないで?”」
小さくそう言った木崎くんは、また今まで見たことの無い悲しそうな顔をした。
「…木崎くんが好き」
思えば最初から、あんなに意識して、避けていた自分は初めてだった。
何が、とか、何で、とか、あんまり上手に説明できない。
でも気になるし、会えば心臓がドキドキしだすし、他の人の存在を知ったら悲しくなる。
それだけで十分だった。
気付いたら、木崎くんの胸の中に収められていた。
私の顔は丁度木崎くんの心臓の位置で、私に負けないくらい大きな拍動を感じて嬉しくなった。
「……本当に?」
「…うん、本当……」
「…信じらんねえ」
「……ふふ、嘘じゃないよ」
「もう一回言って」
首を横に振ったら、木崎くんの香水の香りがより一層私のなかに入ってくる。
「あー…、可愛い。どうしよ」
冗談だと分かっていても、ストレートに恥ずかしげもなく褒め言葉を並べられるとどうしたらいいのか分からなくなる。
「誤解させてごめん。もう、今までとは違うから」
「…うん」
抱き締められていた体が離れて、冷たい夜風が間をすり抜ける。
視線を上げて、目の前の木崎くんと目を合わせた。
「…本当に。なんか気になることあったら、何でも聞いて。全部答える」
「……全部?」
「ん。でも嫌いになんないで」
なんだか必死な姿が可愛くて、つい笑ってしまう。
きっと今の私が知っている彼は、ほんの少しで、もっと他に良いところも悪いところもあるんだろう。
ゆっくり、時間をかけてお互いを知りたい。
そして、胸を張って彼の横を歩けるような、私になりたい。
