それから、後夜祭は大きなトラブルもなく、予定通りに進んだ。
私たちも、トラブルが無ければ大きな仕事もない。
周囲を気にしつつも、軽音部のステージを楽しんでいた。
カラオケが始まった時には、ステージを聞きつつ、憧れの先輩と写真を撮ったり告白をしていたりそんな光景が広がっていた。
夜風が染みて、少し体が冷える予感がした。
クラスのTシャツから出た二の腕のあたりを摩ると、案の定肌は冷たい。
ふと向けた視線の先には、あの、木崎くんと一緒にいた綺麗な先輩が、絶え間なく男子生徒に声を掛けられている。
サラサラと靡く綺麗な髪の毛も、大きな瞳も、白くて細くて長い手脚も、やっぱり全部綺麗だ。
…こんなの見たら、木崎くんは怒るだろうなあ…
向こう側で私と同じように、一応実行委員の仕事をしている木崎くんに目線を向ける。
気付かない訳がない先輩の人気っぷりなのに、木崎くんは全く見ていなくて男友達と笑いながら話しているようだった。
…そっか、もうこんなの日常茶飯事って事だ。
彼氏だから、余裕綽々なんだ、きっと…
向こうのほうでは、ユキくんも女の子に声をかけられていて、楽しそうに一緒に話している。
…ユキくんも、なんだかんだモテるんだよなあ。
ユキくんが連絡先を聞かれているところを結構見かけるし、私自身ユキくんと付き合ってるのかどうか聞かれることが度々ある。
ユキくんは調子が良くて、いつも明るくて楽しい人だ。ああいう人をムードメーカーっていうんだろう。落ち込んだところなんて見た事がない。
だけど、いざという時には頼りになる。
今日だって、ユキくんの言葉が無かったから、きっとこんな気持ちになってなかった。
私にとって、大切な、大事な、友達だ。
ユキくんを見て微笑ましく思っていたその時、冷たい夜風が吹いて、思わずまた腕を抑える。
カーディガン、持ってくればよかったなあ…
「寒い?」
後ろから聞こえた声に振り返る。
フワッと風にのって届いた香りと、低くて落ち着いた声は、木崎くんだ。
「…ちょっと、寒い、かな」
心臓が、うるさい。
ドキドキするあまり、曖昧な笑顔を木崎くんに向けたかなと焦っていたら、彼は着ていたカーディガンを脱いで私に手渡してくれた。
「木崎くんが、寒いよ…?」
「…まあ若干寒いけど、女の子半袖にしとけないし」
「ほら、寒いなら…」
「いーよ」
とても有り難いし、もちろんすごく嬉しいんだけど、どうしてもあの先輩が気になってしまう。
こんなの、絶対怒られちゃうよ木崎くん…
