「本当に?」
「本当だ。あいつよりも俺の方がずっと…好きだ」
ー悟さんのことを言っているのだろう。
「悟さんは私のこと好きじゃないよ。
あと、私の気持ちも変わってないよ」
そう言って抱き締め返すと、
「本当か?
もし違ったとしても、俺はもう絶対百合子から離れられない」と更に強く抱き締められた。
「あと、あいつだけ下の名前で呼ぶのは納得できない」
「え?」
「俺も呼ばれてないのに」
少し拗ねている様子に笑ってしまいそうになる。
「仁」
そう言うと橘は驚いた顔をしたあと、
顔を隠してしまった。
ーどういう表情が見たかったのに。
「百合子、悪い私の家に行ってもいいか?
順番がおかしいのはわかっている」
ーおそらく行けばキス以上のこともするのだろう。
私は、
「いいよ、私も行きたい」そう返事をすると、
いつもより危なっかしい運転で橘の家に着いた。
橘の部屋に来るのは初めてだった。
マンションの上層に住んでいて、
部屋のなかは、無駄なものが置いてなかった。
ホテルみたいだな緊張しながらもそんな風に考えていたら、いきなりキスをされた。
何度も繰り返しキスをされて、
呼吸が苦しくなった。
橘がそれに気付いてキスを止めたが、
ネクタイを外してシャツのボタンを取ろうとした。
「ま、待って、シャワー浴びたい」
「ああ。悪い。
あっちがお風呂場だ。着替えを適当に出しとくから使ってくれ」
いきなりこんな展開になって驚いているし、ドキドキが止まれない。
ーせっかくなら、
可愛い下着にしてくれば良かった。
考え出すとキリがないので、
自分のなかの煩悩を消すように、
シャワーを浴びて、すぐ髪と体を洗った。
橘の服を着てみたものの、
身長の差がすごいため、上だけしか着れず、
ミニワンピースのようになってしまった。
「お、お待たせしました」
ー橘はこっちをみたと思ったら、
すぐ目線を外した。
「髪…洗ったのか」
ー普通は洗わないのか。
恋愛経験が乏しすぎて、髪を洗わない選択肢がなかった。
こっちを見てくれないし、がっかりさせてしまったかもしれない。
「ごめん、洗っちゃった。
すぐ乾かすね」
「いや、大丈夫だ。
俺も入ってくる。ここのドライヤーを使ってゆっくりしていてくれ」

