私ー秋山百合子は社長令嬢で、
現在は父親の会社に勤めている。

私が大学を卒業して、
父の会社に就職し一人暮らしを始めてから、
橘をボディガードとして紹介された。

父の会社は一応大きく、
ライバル会社が多いこと、
そして何と言っても一人暮らしを始めたことへの心配が大きかったのだと思う。

とはいえ、
会社の中は安全なので、
ボディガードといっても、
平日の会社への送り迎えだけしてくれていた。

最初会ったときの第一印象は、
とにかく怖そうで近寄りがたく、
何を考えているかわからなかった。

会ってしばらくの印象は変わらず、
私自身も橘に無理に話し掛けなかったので、
お互い距離があった。

関係が変わったのは、
私が仕事を覚えるために残業が続き、
迎えにきてもらうのが遅かったとき。

「毎日こんなに遅くなってごめんね」

私が橘にこう言うと、
「大丈夫ですよ、いつも頑張っているの知っていますよ」
と少しだけ微笑んでくれたことがあった。

学生時代も就職してからも、
周りからは『社長令嬢』という肩書きで見られることが多かった。

どんなに努力しても、
周りからは元々恵まれているからと認められず、
会社でも「社長令嬢だからあんなに仕事をもらえるのよ」と陰口も聞いたことがあった。

それなのに、
橘は私の努力を認めてくれていたんだ。

私は泣きそうになる気持ちを抑え、
下を向きながら「ありがとう」と答えた。

そこから、
私からどんどん話し掛けるようになり、
今のような関係になった。

橘はボディガードの職場に勤めていて、
私の送り迎え以外は会社で働いている。

そこでの頑張りが評価され、
私のボディガードを辞めて、
管理職にならないかと誘われているようだった。

私はもちろん橘と離れたくなかったが、
橘のためにも受けてみたら?と聞いたことがあった。

ーそのとき、
「俺は百合子を見守りたいんだ。
ボディガードを続けさせて欲しい」
と跪いて、私の手を持ったまま言われた。

「わ、わかったわ」

私は顔を真っ赤にしながらも、
何とか答えた。

それまでも橘への恋心に気付いてはいたものの、社長令嬢という立場から、
いつか父の会社を継いでくれる人と結婚するものだと思い諦めていた。

でも、諦めたくないー。

そう思い、
私はさらに努力して自分が社長の座に就くことを決心した。