お店の駐車場まで、
駆け足で連れていかれて、何も話しかけることができなかった。

橘の車に乗り、
やっと「どうしたの?」と尋ねられた。

橘は何も言わなかったため、
「悟さんに挨拶しに行かないと」と言ってドアを開けようとしたところ、
「あいつのところに行かせたくない」と言って後ろから抱き締められた。


あまりの出来事にびっくりして、
体が固まった。

「悪い、やっと俺以外の人を好きになれそうだったのに。
しかも百合子とお似合いの」

橘が自虐そうに呟く。

「俺は…そばにいれるだけでよかったんだ。

前までは本当にそう思っていた。
でも違った。

百合子のとなりに誰かいるなんて耐えられない」

橘の方を振り返ると、
真剣そうでかつ辛そうな表情の橘がいた。

ーこれは、私のことが好きってこと?
いや、でも告白のときは嬉しそうではなかったから違う感情なのかな…

何もわからない。

「橘は私のことどう思っているの?」

橘はどう答えるか悩んでいるようだった。
やっぱり違うんだ…

「私のこと…好きじゃないなら、
こんな思わせ振りな態度とらないで」

私はずっと我慢していたが、
泣いてしまい、橘から離れようとした。

「好きだ」

「え?」

橘を見ると、
真剣そうにまた緊張している面持ちでこちらをみていた。

「じゃあ、告白のときなんであんな態度をとったの?
それに私は橘の好みじゃないんじゃないかな」

考えれば考えるほど信じられない。

「あれは…悪かった。
告白されたときにも言ったが、
自分じゃ百合子と釣り合わないと思って…

敬語にしたのも、なるべく百合子を見ないようにしたのも、気持ちをおさえるためだった」

橘の表情には嘘がないようにみえる。
ー本当に?私のことが好き?

「あと、俺の好みじゃないというのは、どういうことだ?」

「綺麗な女性と歩いていたのを見たの」

ー思わず橘の気持ちを信じそうになったが、
女性と歩いているのを忘れていた。

「いつだ?
俺は百合子以外だと…妹くらいしか女性といることがないのだが」

「妹?妹さんはどんな人なの」

「俺と似たような感じだ。
身長も高いし、クールなイメージかな」

ーまさか妹だとは。
全く想像付かなかった。

「正直女性の好みとかはないが、
強いていうなら百合子みたいな女性がタイプだ」

恥ずかしげもなく言われて、こちらが照れてしまう。