ーまだ好き。
でも諦めないといけない。
何と返事していいかわからず、うつむいてしまった。
「秋山さんはなにも考えず、
お見合いを続けて大丈夫ですよ。
私が勝手に動くので」
見上げると、
また優しそうな表情の相原さんがいた。
「でも、なんでそんなことしてくれるんですか?」
「うーん、自分の勘が合っているか試したいという気持ちもありますが、
実は警備会社にもコネを作りたくて」
「え?」
「彼は警備会社に勤めているんですよね?
もし私がキューピットになって、
色々うまく行ったら警備会社とも縁ができるなと思って」
ー意外な理由で驚いた。
でも、私が可哀想で私の為と言われるよりは大分良かった。
「だから気にしなくていいですよ、自分の為に動くだけですから。
それに、あの彼の様子だと他のお見合い相手だと上手く行かなかったのでは?」
「は、はい」
「やっぱり。
では私は勝手にキューピットをする、
秋山さんには少し協力はしてもらうと思いますが、あまり気にせずお見合いを続けるということで」
ーこのままでいいのだろうか。
でも他の人とお見合いしても上手くいかない気がするし、
相原さんに協力してもらっても橘と関係が変わらなければ、私もさすがに諦めがつくかもしれない。
私は悩みつつも、
「宜しくお願いします」と答えた。
「良かった。
私としてはこのまま秋山さんとお見合いを続けるのもアリだと思っているけどね。
こちらこそ、宜しく」
少し妖艶な笑顔を浮かべながら、
私の手をとり、手の甲キスをされた。
ー橘に前に手を取られて跪かれたとき、
キスはされなかった。
でもあの時のことと重なって思い出してしまい、私は顔を真っ赤にしてしまった。
すると、今まで入口にいた橘が、
私たちの席まですごい形相で走ってきた。
「初対面なのに馴れ馴れしすぎませんか?」
「ふふ、手にキスしただけだよ。
それに、もうただの初対面ではなくて、
これからもお見合いを続けることにしたから」
相原さんの発言に驚き、
橘がイライラした雰囲気とすごい怖い顔でこちらを見た。
「本当か?」
「う、うん」
「まあ、今日はこれくらいにしておこうか。
また次回楽しみにしとくね」
相原さんがそう言って、
個室から出ていってしまった。
部屋には私と橘だけになり、
沈黙と気まずい雰囲気が漂っていた。
「ちょっとこっち来てくれ」
橘に手を引っ張られ、
手洗い場まで連れて来られ、
水を出して私の手を洗おうとしている。
「え、なんで?」
「もしかするとバイ菌が付いているかもしれない」
ーさっきのキスで?
こんなに潔癖だったっけ?
「いや、大丈夫だよ」
「俺が気になるんだ」
半ば強引に橘に後ろから抱き締められるような形で、手を洗われた。
私はまた顔が赤くなっているのがわかり、
バレないように俯いた。
しかし、手を洗い終わった後、
橘が覗き込むように見てきた。
真っ赤な私の顔を確認すると、
なぜか満足そうな表情をした。
「よし、これでいい」
橘はそう言って、
さっきよりも機嫌が良さそう顔をしながら、
個室を後にした。

